井上陽水の“歌の魔力”を堪能するーー全国ツアーオーチャードホール公演を見て

井上陽水の“歌の魔力”を堪能する

 突然、三橋美智也の「古城」をアカペラで歌い始める陽水。「このままフルコーラス歌ったりはしません。『コーヒー・ルンバ』を南国風味でどうぞ」とレゲエ・アレンジが施された「コーヒー・ルンバ」からライブは終盤へ。意味よりも言葉の響きを重視したリリックが奥深いグルーヴを生み出す「とまどうペリカン」、薬師丸ひろ子に提供した“第二の人生”をテーマにしたラブソング「めぐり逢い」、ダークな疾走感をたたえたバンドサウンドと<なにもかもが闇の中に>というラインが共鳴する「夜のバス」など多様にして多彩な楽曲が次々と披露される。そして、この日もっとも強い熱気を生み出したのは代表曲「氷の世界」。イントロが鳴った瞬間に「おお!」という声が上がり、前方の観客から順番に立ちあがる。濃密なバンドグルーヴと寒い冬の心象風景が絡み合うこの曲の刺激は、リリースから40年以上経った現在もまったく色褪せていない。

 このまま盛り上がる曲が続くのかと思いきや、ジャズ・テイストの静寂のナンバー「結詞」で本編は終了。アンコールではロックンロール調にアレンジされた「アジアの純真」、さらに「夢の中へ」「傘がない」とキャリアを象徴する名曲を歌い上げ、ライブはエンディングを迎えた。

 古今東西の音楽を自由に操ることで生まれる楽曲、重厚さとしなやかさを共存させたボーカル。現在の井上陽水の充実ぶりをたっぷりと体感できる素晴らしいステージだった。再来年はデビュー50周年。とんでもなく豊かでありながら、まったく捉えどころがない陽水の音楽はここからさらに進化していくことになりそうだ。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

■セットリスト
井上陽水
2017年11月13日(月)
東京・Bunkamura オーチャードホール

1 この頃、妙だ
2 Pi Po Pa
3 フィクション
4 青空、ひとりきり
5 Make-up Shadow
6 なぜか上海
7 東へ西へ
8 My House
9 ワインレッドの心
10 女神
11 瞬き
12 帰れない二人
13 神無月にかこまれて
14 Just Fit
15 コーヒー・ルンバ
16 とまどうペリカン
17 めぐり逢い
18 夜のバス
19 氷の世界
20 結詞
アンコール
21 アジアの純真
22 夢の中へ
23 傘がない

■ツアー情報
『井上陽水 コンサート2017秋 ″Good Luck!″』
※終了分は割愛
11月17日(金)徳島 鳴門市文化会館
11月20日(月)兵庫 神戸国際会館 こくさいホール
11月21日(火)奈良 なら100年会館 大ホール
11月25日(土)福島 郡山市民文化センター
12月3日(日)東京 東京国際フォーラム ホールA

■リリース情報
『GOLDEN  BEST  VIEW ~SUPER LIVE SELECTION ~』
2017年10月4日(水)発売
Blu-ray¥5,600(税込)
DVD¥4,600(税込)

<収録曲>
1 少年時代
2009年 日本武道館
2 Make-up Shadow
1999年 東京国際フォーラム
3 5月の別れ
2004年 NHK「井上陽水 空想ハイウェイ」
4 いっそ セレナーデ
1999年 東京国際フォーラム
5 リバーサイド ホテル
1999年 東京国際フォーラム
6 飾りじゃないのよ 涙は
2002年 NHK「ミュージック・カクテル」
7 氷の世界
2009年 NHK 「SONGS」
8 最後のニュース
1997年 TBS 「筑紫哲也NEWS23」
9 結詞
1999年 東京国際フォーラム
10 女神
2017年 昭和女子大学人見記念講堂
11 瞬き
2015年NHK「SONGS」
12 夢の中へ
2009年 日本武道館
13 傘がない
2009年 NHK 「SONGS」
ーBONUS VIDEOー       
14 ありがとう
2007年Zepp TOKYO(Double Shopping Drive)with奥田民生
15 夏の終りのハーモニー
1986年 神宮球場(スターダスト・ランデヴー 井上陽水・安全地帯 LIVE at 神宮スタジアム)with安全地帯

 井上陽水オフィシャルサイト

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