CRAZYBOYはヒップホップをどう変える? DARTHREIDER の『NEOTOKYO WORLD』評

DARTHREIDERの『NEOTOKYO WORLD』評

 三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEのELLYが9月21日にリリースした、CRAZYBOY名義での初のパッケージ『NEOTOKYO WORLD』。同作はPKCZ®、EXILE SHOKICHIなどとコラボを重ねてきたCRAZYBOYのMV、ライブ映像やドキュメンタリーに加え、デジタルリリースした『NEOTOKYO EP』『NEOTOKYO II EP』の楽曲を収録。音と映像、様々な角度からCRAZYBOYの魅力にふれることができる作品が完成した。今回リアルサウンドでは、以前『NEOTOKYO EP』の作品の魅力についても語ってもらったラッパー/HIPHOP MCなどで活躍するDARTHREIDER a.k.a. ReiWordupに、今作から伝わるCRAZYBOYのアーティスト性と今後の活動への期待について語ってもらった。(編集部)

(参考:CRAZYBOYは“強力なヒップホップ作品”を生み出した DARTHREIDERの『NEOTOKYO EP』評)‎

CRAZYBOYの“今”を詰め込んだ、ボリューム満点のパッケージ

 まず驚いたのが、本人曰く「まだ新人」なのに、いきなりボリューム満点のパッケージをリリースしてきたこと。これまでのミュージック・ビデオ4本とCRAZYBOYのヒップホップライフに迫ったドキュメンタリーを収めたDISC-1、AbemaTVの配信で46万人も観ていたというライブ『NEO TOKYO LIVE』の映像とライブまでの道のりを追ったドキュメンタリーを収めたDISC-2、配信リリースしてきた音源をすべて収めたDISC-3と、楽しみ甲斐のある3枚組で、さらに初回盤には、ヒップホップ・カルチャーならではのコラージュ感がかっこいい40ページのフォトブックと、ステッカーまで付いている。CRAZYBOYの“今”を丸ごと詰め込んだ、出し惜しみのまったくない内容で、しかも価格は3,500円でお買い得。「とにかく、今の自分をみんなに見て欲しい、自分の表現を届けたい!」という、CRAZYBOYの強烈な欲求が感じられます。

 パッケージのデザインも良いです。光沢のある紫にインパクトがあって、僕らの世代だと、プリンスの出演映画を3本をパッケージングした『プリンス フィルムズ』などを連想してしまいますね。三代目 J Soul Brother(from EXILE TRIBE)が、いろんな色が混ざったカラフルなグループだとしたら、そこからソロで出てきたCRAZYBOYの色は紫なんだっていう感じがして、すごくかっこいいです。

 また、今の時点でこれほどの作品をリリースしてしまうスピード感も、ヒップホップ的な観点から見て重要です。今の世界のラッパーたちは、曲を作ったり、ライブをやったりしたら、すぐにそれを作品にして世に出す傾向があって、それは自分たちのやっている表現は最先端でかっこいいという信念があるからこそ、とにかく早くリスナーに届けたいのでしょう。アーティストはビッグになればなるほど、なにかを作ろうと思った時に様々な面での調整が必要になってくるもので、あれだけの大所帯であるEXILE TRIBEの一員となれば、普通はこれほどのスピード感ではできないはず。にも関わらず、こうして形になっているのは、なんといってもCRAZYBOYが明確なビジョンを持って、自らの意思でスタッフを含め、周囲の人々に働きかけているからだと思います。だから、やらされている感がまったくないし、純粋にハイクオリティなヒップホップ作品として楽しめるんですよね。

対照的なMVとライブ映像

 収録されているMVとライブ映像が、対照的なイメージになっているのも、大きなポイントだと感じました。

 まず、ライブ映像ですが、これは僕も実際に現場に行って観ているもので、とにかくストイックでフィジカルなパフォーマンスだったのが印象的でした。LDHに所属するCRAZYBOYなら、たとえばプロジェクションマッピングでステージに映像を流したりとか、派手な演出はいくらでもできたはず。ところが、最初に黒一色のステージ上に現れたのはCRAZYBOYとDJ NAKKIDの二人だけ。マイク一本、声と身体のパフォーマンスだけで勝負しようという、CRAZYBOYの気概が感じられます。そして、汗だくになりながら全14曲のパフォーマンスをやりきる。あれだけラップして踊りきるヒップホップアーティストは、ほかにはそういませんね。

 ゲスト・アーティストとの絡みも大きな見どころです。まず、同じくLDH所属のEXILE SHOKICHIや登坂広臣、DOBERMAN INFINITYの連中とは、一緒に鍛錬して戦ってきた仲間同士の絆が垣間見えて、かなり熱いです。彼らがトレーニングをしたり、ツアーを回ったり、楽曲を作る過程は、当然ながらかなりハードなはずで、それを共に乗り越えてきているんだという意識が、パフォーマンスからも感じられるんですよね。一方、ジャパニーズ・レゲエ界の重鎮であるMighty CrownのMASTA SIMONやFire Ball、ヒップホップアーティストとして先輩でもあるANARCHYとのフィーチャリング曲では、彼らに最大限のリスペクトを込めつつ、しっかり対等に向き合っている。ステージ上で、マイク・パフォーマーたちの歴史というか、世代を越えて受け継がれていくものが感じられて、それがすごく良かったです。また、自分のファンたちに「こういうかっこいい音楽をやっている人たちなんだよ」って真摯に紹介しようとしている姿勢も、頼もしかったですね。

 対するMVの方は、ライブとは一転してカラフルなイメージです。たとえば、現時点での代表曲である「NEO TOKYO」。『攻殻機動隊』や『AKIRA』など、近未来の日本を舞台にしたSF作品へのオマージュにあふれた映像作品で、非常にクオリティが高いのですが、逆に言えば同じような映像作品を作りたいと考える人は多いはずで、乗りこなすのは難しい。でも、CRAZYBOYは違和感なくこの世界に溶け込んで、「ここが俺のいる世界だよ」って言い切れるくらいの華を持っている。ほかにも、LAロケの「Tropical Paradice」ではCRAZYBOYが考えるパラダイスを見せて、「STARSHIP」ではLAのダンスクルーとコラボして、独特の宇宙観を表現している。

 ライブでは黒一色のストイックな世界を見せて、MVではイメージを膨らませたカラフルな世界を見せるというバランスは、すごく正しいです。なぜなら、ライブはその瞬間を見せるものだし、映像作品はしっかり作り込んで見せるものだから。パッケージとしても、この2枚のディスクが別の表情を見せていることで、奥行きが出ていますよね。

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