白熱する「ポストEDM」論争 サマソニやULTRAから読み解く、分岐点を迎えたシーンの現状

白熱する「ポストEDM」論争を読み解く

 2017年は、エレクトロニックミュージックのシーンの潮流、そしてEDMというジャンルにおける一つの分岐点が示された年として記憶されることになるかもしれない。

 そのことを如実に実感したのが、8月19日の『SUMMER SONIC 2017』東京初日、マリンステージのヘッドライナーとして登場したカルヴィン・ハリスのステージ、そして今年の『ULTRA JAPAN』を目撃したことだった。

 「世界で最も稼ぐDJ」カルヴィン・ハリスのステージに賛否両論があったことを記憶している人も多いと思う。6月末にニューアルバム『Funk Wav Bounces Vol.1』をリリースした彼。で展開されたのは、これまでのバウンス系のアッパーなビートではなく、ゲストを多数迎えたメロウなテイストのサウンドだった。しかしサマソニのステージにおいて最新作から披露されたのは「Slide」の1曲、90秒ほどのみ。新たなモードを期待したファンが失望を表明する一方、ヒットチューンを連発したステージにスタジアムは大きな熱狂に包まれていた。

 そして9月16日から18日の3日間に行われた『ULTRA JAPAN』。筆者は初日に訪れた。メインステージのヘッドライナーはアレッソ。ラインナップにはスティーヴ・アンジェロ、ニッキー・ロメロが並ぶ。そこで感じたのは、いわばULTRA JAPANの、そしてEDMの “定着”だった。台風の接近により悪天候だったにも関わらず、フェスは3日間でのべ12万人を動員。フジロックに比べるとオーディエンスの年齡層はあきらかに若い。そしてこの手のフェスのオーディエンスに、いわゆる“パリピ”的なイメージを抱く人も多いかもしれないが、筆者にとって印象的だったのは「騒ぐごと」よりも「音楽そのもの」がストレートに愛されている場の空気だった。英語の歌詞を覚えサビを合唱しているオーディエンスも多かった。

 この二つのフェスを体験して感じたこと。それは、昨今取り沙汰されている「ポストEDM」なる言葉の虚像と実像を垣間見たような実感だった。

 ビッグルーム、バウンス、フューチャーベース、トロピカルハウスなど、様々なジャンルが勃興しているこのシーンの“次”を探る動きは多い。たとえば『サウンド&レコーディングマガジン』2017年10月号では「『ポストEDM』先端サウンド論考」と銘打った特集が組まれている。もちろんトレンドは移り変わっていく。トロピカルハウスのブームが一段落しつつある昨今、次は何が流行るのかを虎視眈々と狙っているDJやプロデューサーも少なくないだろう。

 ただ、「ポストEDM」という言葉を「EDMが終わって次に◯◯が来る」という意味に捉えるとシーンの動きは見えづらくなる。というのも、「EDM」という言葉には、重なり合った二重の意味合いがあるからだ。

 現状、日本において「EDM」という言葉が持っているイメージは、あくまで狭義のもの。2010年代以降にアメリカ発で世界に広まった、ビッグルームハウスやバウンスなどのムーブメントを指す。ただし、そもそも「EDM(=エレクトロニック・ダンス・ミュージック)」は、ロックやヒップホップと同じくらい広い意味合いを持つジャンルである。そこには80年代、90年代以降のハウスやテクノやトランスも含まれる。今年のULTRA JAPANにアンダーワールドが出演したことが一つの象徴だ。そんな風に、筆者はどちらかと言うと「EDM」という言葉を広義に捉えている。そう考えるならば「EDMが終わる」という状況が訪れることは、(「ロックが終わる」「ヒップホップが終わる」のと同じくらい)あり得ないことだと言える。

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