星野源が示す、これからのスタンダード「過去からつながった“いま”の最先端として表現したかった」

星野源、ロングインタビュー第3弾

偶然が必然的に全部繋がってる

――では最後4曲目、恒例の宅録シリーズ「KIDS(House ver.)」です。「とにかくTR-808のビートが聴きたいという気分で制作した」とありますね。

星野:このシリーズはいつも時間がないなかでつくってることが多くて、今回もやっぱり時間がなくて。これは一日だけでは終わらなくて、だいたい一日半ぐらいかかりましたね。もともとはほぼラップでいこうと思っていたんですよ。

――おおっ!

星野:最初はギターとベースと808(ヤオヤ)の音でラップのトラックとしてオケをつくっていたんですよ。それでサビだけ歌おうって決めていたんですけど、ラップを書く時間がなかったんですよね。歌のほうが簡単にできちゃったから、これでいいじゃんって(笑)。最後の一節にちょっとラップっぽいを声を重ねてるのが名残ですね。

――「TR-808のビートが聴きたい」という動機が気になりますね。

星野:808の音が好きなんですよ。うん、単に好きっていうだけです(笑)。808でヒップホップ的なビートを組んで、家のなかでボソボソとラップをするっていうのをやりたくて。

――最近はピコ太郎「PPAP」(2016年)のヒットだとかトラップミュージックの台頭だとかでなにかとスポットが当たることの多い808ですけど、星野さんは808のどういうところに惹かれるんでしょう? やっぱり音色ですか?

星野:そうですね。音色と、あとは日本産の楽器というところですかね。

――あー、ローランド。4月に創業者の梯郁太郎さんがお亡くなりになりましたね。

星野:あとこれはすごくしょうもないんですけど、うち、八百屋だったんですよ。

――フフフフフ……それが808愛の決め手になっていると。

星野:そこがいちばん大きいかもしれない(笑)。「ヤオヤ」と呼ばれている楽器があるということですごく気になっていて。

――TR-808を導入したごく初期の作品としては星野さんも大好きなイエロー・マジック・オーケストラの『BGM』(1981年)がありますけど、星野さんの個人的な808クラシックはありますか?

星野:なんかあるかな……あ、ヤン富田さんの「4'33"」(1992年)ですね。ジョン・ケージの「4'33"」(1952年)のカバーなんですけど、ヤンさんのバージョンもやっぱりまったく音が入ってなくて(笑)。ただ、スタートの合図が808のカウベルの「ポーン」っていう音なんですよ。ヒップホップアプローチのカバーだと勝手に思っています。

――この宅録シリーズのときって歌詞のテーマはあらかじめ考えておくんですか?

星野:いや、いつもあまり考えてないです。いつも時間がないなかでつくることが多いので。大人になりきれない感じをなんとなくテーマにしてみようと思ったんです。そうしたら、昔につくった「子供」(2010年)って曲をいまの気分にアップデートした感じになってきて。ラップは時間がかかりそうだし締め切りに間に合わなそうでやめたんですけど、試行錯誤はしたんですよ。2番の〈迷うよシティ〉って歌詞のあと、隅田川のあたりから高田馬場まで行く道のりをラップで書いてみて。でもそこから歌に戻るのがむずかしかったんですよね。そのまま最後までラップだったら別にいいんですけど、歌に戻るのがちょっと唐突すぎて(笑)。それで「ボツ!」ってことになってやめちゃいました。

ーーこの歌詞で描かれている、日々のなにげなく流れていく生活感が小気味良いリズムと相まってすごく心地いいです。不思議と元気が出ますね。

星野:そうですか。自分としても、リズムがすごくいい感じにできた感覚があります。

――最後にちょっとアートワークに関しても簡単にお話を聞かせてもらいたいんですけど……中身を見てひっくり返りました。

星野:ハハハハハ。

――ミュージックビデオもすごいことになってますね。あの「見覚えのある家族」が再結集しているのももちろん楽しいんですけど、曲のコンセプトやメッセージがほぼ完璧に落とし込まれていることに驚きました。

星野:そうですね。まず、これからの時代のスタンダードになるであろう多様で自由な家族像を、演じているキャラクターと中のひとの性別をぐちゃぐちゃにしたことで、無意識にでも感じられればと思いました。かつ、この『サザエさん』的古き良き家庭観を日本のトップランナーである吉田ユニのアートディレクションの美術世界に入れることで、ノスタルジーでなく過去からつながった“いま”の最先端として表現したかったんです。ちなみに、『サザエさん』のTVアニメが始まったのは実は1969年。そして、同じ1969年に発売された筒美京平さん作の『サザエさん』の主題歌には、モータウンの影響を感じます。楽曲で目指した〈60年代末から70年代初頭のソウルミュージック〉という部分に偶然にもピッタリはまるんです。これからの家族の歌であるということ、借り物ではなく自分の場所のソウルミュージックであること、すべてのコンセプトが、意図せずに企画した「あの番組」を再現することでつながるという。もちろん、その出演者でもあった高畑充希さんが主演しているドラマの主題歌であることもすべてつながるんです。

――改めて確認させてください。これって「あの番組」と『Family Song』をあらかじめからめようとして始まった壮大なプロジェクトとかではないんですよね? 家族というテーマやコンセプトが一致したのはまったくの偶然?

星野:もちろん、まったくの偶然です。

――こんなミラクルが起こるんですね。

星野:はい(笑)。だからいろいろな意味ですごく自然な流れがつくれたと思っていて。この偶然が必然的に全部繋がってる感じって、逆にものすごく刺激的でヤバイことだと思うんです。

(取材・文=高橋芳朗)

 星野源『Family Song』ロングインタビュー特集

・第1回:星野源、「Family Song」で向き合った新たな家族観「“これからの歌”をまたつくりたいと思った」
・第2回:星野源が語る、J-POPとソウルミュージックの融合「やってみたかったことが見事に合致した」

『Family Song』

■リリース情報
『Family Song』
発売:2017年8月16日(水)
【初回限定盤(CD+DVD、スリーブケース仕様)】¥1,800(税抜)
【通常盤(CD)】¥1,200(税抜)
<CD 収録内容(初回限定盤・通常盤 共通)>
01. Family Song ※日本テレビ系 水曜ドラマ『過保護のカホコ』主題歌
02. 肌 ※花王ビオレuボディウォッシュCMソング
03. プリン
04. KIDS (House ver.)

<初回限定盤収録DVD>
DVD『Home Video』
・新春Live『YELLOW PACIFIC』厳選ライブ映像
Voice Drama
ワークソング
Snow Men
口づけ

一流芸能人からの新年のメッセージ
Continues
時よ
・「プリン」Recording Documentary
星野源と友人によるコメンタリー付

■配信情報
iTunes Store 
レコチョク
mora

■ライブ情報
『星野源 LIVE TOUR 2017『Continues』』
8月25日(金) 日本ガイシホール(名古屋)
8月26日(土) 日本ガイシホール(名古屋)
9月9日(土) さいたまスーパーアリーナ
9月10日(日) さいたまスーパーアリーナ
ツアー特設サイト

『Family Song』特設サイト
オフィシャルサイト

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