次世代ロック研究開発室・石川大氏が語る、“尖った才能”との出会い方「大切なのは気づく力と描く力」

次ロック研・石川大氏が語る“音楽の未来”

 音楽の未来を作るのは、絶対にこれからの人たち

ーー6月14日、新宿LOFTで開催された初のレーベルイベント『第一回研究発表会』は、w.o.d.やSurvive Said The Prophet、CHAI、Creepy Nutsなど、尖ったアーティストが揃い、どのアーティストも高いパフォーマンス力を見せていました。音楽シーンとして音源の価値と同時にライブでの価値も大きくなっていると思いますが、アーティストはどのように力を発揮すべきだと考えますか?

石川:どちらも大事だと思いますが、ライブに関して言うと、いろいろな表現の仕方があるけれど、“お客さんの気持ちを読みきったもん勝ち”という気がしています。岡崎体育はその点で上手だなと思いますね。お客さんの気持ちまで想像ができていて、音源を作ってライブをやれているかということが大事だと思います。そのためには、己を知っているかどうか。ミュージシャンは人から見られる仕事だから、人から自分がどう見られてるかということを知っているかどうかが重要です。それを知っているミュージシャンは、お客さんを読み切る可能性があると思います。

ーー次ロッ研に集まっているアーティストはどうですか?

石川:さまざまですね。Creepy Nutsは自分たちの見せ方、見え方をめちゃくちゃ考えています。ヒップホップシーンがあまりいい状態ではない時期も知っていて、苦労もしていますから。一方で、CHAIはあまり考えすぎない方がいいと思うので、どれだけ自由演技をさせてあげられるかだと思います。

ーーイベントのBAR STAGEでは、特にThe Songbardsが印象的でした。原石の輝きがあり、楽曲のよさが際立っていましたね。

石川:彼らは神戸を拠点に活動している4人組のバンドなのですが、まずボーカルの上野皓平の声がいい。そして曲を生み出す能力が非常に高いバンドです。彼らの向こう側に夢を見てくれる方が多くて……色々なご意見、アドバイスをいただきますが、元々持っている魅力を磨いて更に替えのきかないバンドになってほしいですね。

ーー実際にイベントに出演したアーティストは7組でしたが、その何十倍という数のアーティストをこれまでに見られてきたと思います。全体として、若手の有望なアーティストは増えてきているという印象ですか。

石川:そうですね。例えば、地方ですごく美味しいトマトを作っている農家が世間的に有名かどうか……みたいな差なだけで、必ずいるんですよ。次ロッ研はそこにスポットを当てる存在でありたいし、次ロッ研で音楽をやりたいなと思うミュージシャンが出てきてくれたら嬉しいですね。

ーー一方で次ロッ研をこれから作っていくスタッフに関しても、そのような思いを持っていますか。

石川:まず自分の可能性の上限を自分で決めないでほしいですね。もったいないですから。そして、「これは!」と思うミュージシャンと出会ったら、自分をそこにアジャストしていくしかない。しっかりミュージシャンとの信頼関係を築いてほしいから、絶対に逃げるなと。大切なのは“気づく力”と“描く力”で、好奇心のある人は、絶対に伸びると思います。

ーー気付く力と描く力の両方を兼ね備えるのは、なかなか難しいことかもしれませんね。

石川:確かにそうかもしれません。ただ、“描く力”について言うなら、こういう曲ができたから、どこそこのラジオ局に音源を持っていって、出版社に持っていって……ということもそうなのですが、僕はその向こう側に、ミュージシャンがどうなっているかを思い描けているかが問題だと思っています。ラジオ局や出版社など、メディアにはそれぞれその道のプロがいるわけで、そこではプロの力を頼ればいい。僕たちに必要な力は、そうしたプロの人たちがリスナーに音楽を届けた先の将来を描けているか、ということだと思います。
 CHAIに関しては、日本人バンドとして初のグラミー賞受賞という将来を描いています。本人たちも獲るって言っていますよ。もちろん、そこにたどり着くまでのイメージはまだ、途切れ途切れではありますが、出会った瞬間に武道館のステージに立っている姿はイメージできました。そこに連れて行くためにはどうしたらいいのか、と逆算もしつつ、本人たちから出てくるものを形にしていく。やはり、“寄り添う”ということですね。

ーー夢がありますね。グラミー受賞に向けて、一気に仕掛けていく方法もあると思いますがーー。

石川:今の時代、例えば地上波の音楽番組に出たり、ドラマのタイアップをとったからと言って売れるわけじゃないですよね。それでは何が大事なのかと言えば、その舞台に上がるための準備ができているかだと思います。実際に地上波の音楽番組に出て、あるいはドラマのタイアップ曲になって、売れるケースもある。その差を分けるのは、それまで何を積み上げてきたかなんです。そこで、一気に仕掛けるときと、そうじゃないときの判別がつく。CHAIは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤(正文)さんやくるりの岸田(繁)さんがTwitterで「いい」と言ってくれたことがきっかけで一気に広がり始めました。そのときは、ある意味でチャンスタイムだから、放っておくのではなく、いろいろと仕掛けました。そうじゃないときに無理やり仕掛けても伝わらない。大事なのは、その緩急ですかね。

ーー確かにその緩急は肝要ですね。それにしてもCHAIは“語りたくなる”というか、デザインやファッションも含めて、従来の流れをいい意味で「切断」するアーティストだという気がしました。

石川:最高の褒め言葉です。そう言えば、各メーカーでCHAIの争奪戦になっているときに、出会った人がたくさんいるんです。音楽好きな方ばかりで、他にもきっと僕が知らないだけで、そういう思いを持って動き出している方もいらっしゃるかもしれない。それは日本の音楽がもう1回盛り上がる起爆剤になっていくと思いますし、スターが生まれる可能性が高まる気がしていて。そのためには、メジャーがちゃんと時間とお金と人を投資していかないといけないと思います。そのときにレーベルも事務所も垣根なく、みんなが「音楽をもう1回盛り上げようぜ」という気持ちになると思うんです。音楽の未来を作るのは、絶対にこれからの人たちだから、そういう人たちが正しく頑張れる場を作っていきたいですね。

(取材=神谷弘一/構成=高木智史)

■関連サイト
Creepy Nuts
CHAI
Survive Said The Prophet
w.o.d.
The Songbards

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