金子厚武のプレイヤー分析
Yasei Collective、『FINE PRODUCTS』で新章突入ーー各プレイヤーの特徴を改めて読み解く
今年1月に敬愛するマーク・ジュリアナとビルボードで共演を果たしたYasei Collectiveが、新作『FINE PRODUCTS』を発表した。これまではマークともシンクロする新世代ジャズドラマーの一人として、松下マサナオにスポットライトが当たるケースが多かったが、そもそもYasei Collectiveというバンド名は「一人でも歩いて行ける者の集団」という意味があり、松下以外の3人も高いミュージシャンシップを誇るプレイヤーばかり。『FINE PRODUCTS』で新章に突入した今だからこそ、改めて松下以外のメンバーに注目したい。
まずはボーカル、ギター、シンセを担当する齋藤拓郎。マルチエフェクターやボコーダー、カオシレーターなどを操って、多彩な音色を生み出し、いわゆる「ギタリスト」というよりは、ギターを様々な音色を生み出す道具として使うタイプだと言えよう。音の切り替えの細かさゆえに、座ってプレイすることも特徴だ。
フェイバリットとしてはスティーリー・ダン~ドナルド・フェイゲンとの作品でも知られるウェイン・クランツを挙げ、リングモジュレーターなどで作り出されるインパクトのある音色はまさに彼譲り。今年1月にはFla$hBackSのKID FRESINOによる初のバンド録音作品にペトロールズのベーシストである三浦淳悟らとともに参加し、JJJをフィーチャーした表題曲のコーラスでも、ディレイがかった印象的なフレーズを聴かせている。
一方、学生時代のルーツにはHi-STANDARDを挙げ、もともとJ-POP好きだったという彼の作り出すメロディーは非常にキャッチーで、『FINE PRODUCTS』のリードトラック「HELLO」においてもそのメロディセンスが如何なく発揮されている。「玄人好み」とも言われかねないYasei Collectiveの楽曲にポピュラリティを付与する意味でも、彼の存在は非常に大きいと言っていいだろう。
ベーシストの中西道彦は、エレキベースとシンセベースを使い分けるスタイルが特徴。ルーツにはRed Hot Chili Peppersのフリーや、元Jamiroquaiのスチュワート・ゼンダーらを挙げつつ、フェイバリットにはすでに名前の挙がっているマーク・ジュリアナやウェイン・クランツとも馴染みの深いティム・ルフェーヴルを挙げているように、やはりエフェクトを駆使した独創的なプレイが持ち味だ。
オクターバーなどを駆使し、あえてローファイ感のある音像をサンプリング感覚で作り出す手法は、斎藤同様にいわゆる「ベーシスト」という枠組みには収まり切らない感覚で、ベースを始める前にはもともとピアノをやっていたことから、よくある弦楽器のプレイヤーが見よう見まねでシンセを弾くパターンではないのも強み。「HELLO」の間奏ではエレベとシンベの同時弾きを披露するなど、ライブにおいても激しいステージングでバンドのロック的な側面を体現しつつ、一方では「ベーシストよりもドラマーが好き」と語るなど、やはり相当に個性的なプレイヤーである。