Linkin Parkがアップデートした“自身の理論” 新作『One More Light』をバンドの変遷から紐解く

 さあ、ここからが本題。3年ぶりの最新アルバム『One More Light』は今度も賛否を呼ぶような内容なのだろうか。先行トラック「Heavy feat. Kiiara」、続いて公開された「Good Goodbye」や「Battle Symphony」「Invisible」といった楽曲は、過去のLinkin Parkの楽曲群と比較しても、かつてないほどに攻めたものばかりだ。

 きっと古くからのファンには「ラウドか否か?」が問題になるのかもしれないが、これらの新曲はもはやそういう次元ではなく「ロックか否か?」と自身に問いかけることになるかもしれない。モダンなR&Bと呼びたくなる「Heavy feat. Kiiara」やほとんどヒップホップな「Good Goodbye」、The Chainsmokersあたりにも通ずるポップさを兼ね備えた「Invisible」。そのどれもがロックバンドとしてのスタイルを無視したサウンドだし、ファンでなくても「何が起きてるんだ?」と騒ぐはずだ。

 これらの先行トラックは、アルバム『One More Light』の中でもかなり挑戦的な部類の楽曲だ。本作のオープニングを飾る、多幸感あふれる「Nobody Can Save Me」、ダウナーなヒップホップにロック的主張を掛け合わせた「Talking To Myself」、現代的なR&Bやヒップホップを“ロックバンド”Linkin Parkが自己流に解釈した「Sorry For Now」といった“ロックな”楽曲もあるにはある。だが、本作の軸になっているのはもっと根底にある……文字どおり“音”を“楽”しむという姿勢。これまでのLinkin Parkがそうであったように、ジャンルやカテゴライズといった“壁”をぶち壊そうとする姿勢が強まっている。しかも、過去はその壊し方が力技でこじ開けるようなものだったのが、本作ではより自然と、まるで“壁”を優しく融解するかのごとく消し去っているのだから、ただただ驚かされるばかりだ。

 本作のプロデュースは曲ごとによって多少異なるようだが、ベーシックはメンバーのマイクとブラッド・デルソン(Gt)という前作『The Hunting Party』と同じくセルフプロデュース。前作で試みた(しかも多少強引だった)プロデュース法も、今作ではよりナチュラルなものに成長したようだ。また、自身のルーツと向き合い“内に、内に”という作風だった前作と比較しても今作は真逆で、より外へ向けて思いを放出しようとする傾向すら感じられる。

 このように、ロックという枠すら消し去り、ポジティブかつ開放的な作風になった背景には、マイクが言うところの「今はメンバー全員に子供がいるから、子供たちと一緒に聴けるような音楽を作ってみたかった。バンドの真の声を損なわずに、それをやってみたかったんだ」という思いが大きく影響している。その実現のためには、これまでとは異なる手法も積極的に取り入れる。例えば、それは外部ソングライターの導入であり、女性アーティストとの共演といった動きに顕著だ。

 非常に“開かれた”本作は、比較的落ち着いたテンポ感で進行していく。これはLinkin Parkの面々が大人になったからではなく、時代がそういうビートを求めているから。彼らは時代と真正面から向き合い、その中から自分たちにできること、自分たちがまだやったことがないことを模索し、この新作に到達した。確かに初期の作品にあったラウドさや何もかも発散させてくれるような爽快感はないかもしれない。しかし、そういった要素がないから駄作と呼ぶのは間違い。だって、このアルバムをどこからどう聴いてもLinkin Park以外の何者でもなく、これまで以上にメンバーのパーソナリティが色濃く表れているのだから。中でも終盤3曲……ゴスペル調コーラスが加わる壮大な「Halfway Right」、暗闇の中でチェスターの歌とブラッドのギターが一筋の光を灯す本作の肝「One More Light」、ここで終わるのではなく新たな始まりを告げるような生命力を強く感じさせる「Sharp Edges」……には、今のLinkin Parkのすべてが表現されているように感じた。薄暗い地下室でくすぶっていたデビュー前をイメージさせる前作を抜け出し、暗闇から夜明けを迎えたかのような本作に到達した。アルバムのアートワークよろしく、バンドは何度目かの夜明けを迎えたのだなと、アルバムを聴き終えたときに胸に迫り来る熱いものを感じた。

 “雑種の理論”を打ち立ててシーンに登場したものの、自身が掲げる理論と周りが求める固定観念との間で常に戦いを強いられてきたLinkin Park。デビューから17年を経て、彼らは今回の新作『One More Light』でその理論をさらにアップデートさせた。正直、ここまで“雑種の理論”という言葉がふさわしいアルバムはないのではないか。だって、本作こそ『Hybrid Theory』というタイトルが最適とすら感じてしまうのだから。

 そしてLinkin Parkは本作を携えて、今年11月2日、4日、5日に幕張メッセでおよそ4年ぶりとなる来日公演を行う。これまでのライブ同様、きっとLinkin Parkは新作からの楽曲のみならず、過去の代表曲を豊富に織り交ぜたセットリストを提示するはずだ。実は『One More Light』の楽曲はライブでこそ映えるものが多いように感じており、過去の楽曲と並ぶことでその魅力はより増すことだろう。コアなラウドロックから大勢を巻き込むアリーナロック、そしてシンガロング必至の新曲群。ここまで幅広い層を巻き込むことができるのも、今のLinkin Parkの強みだ。

 この3公演には、先ごろ北米ツアーへの帯同も決定したONE OK ROCKがゲスト出演する。ONE OK ROCKも最新アルバム『Ambitions』で過去最大の変化を迎え、ファンの間で賛否を呼び起こしたことが記憶に新しい。時代と対峙し自身をアップデートさせた2バンドの共演は、この先のラウドロック、いや、ロックの在り方のひとつを新たに提示してくれることだろう。間違いなく今年最大の話題作である『One More Light』同様、この来日公演も2017年に必ず観ておくべきライブになりそうだ。

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

『One More Light』

■リリース情報
『One More Light』
発売:2017年5月19日(金)
〈収録曲〉
1 ノーバディ・キャン・セイブ・ミー
2 グッド・グッドバイ
3 トーキング・トゥー・マイセルフ
4 バトル・シンフォニー
5 インビジブル
6 へヴィー / リンキン・パーク&キアーラ
7 ソーリー・フォー・ナウ
8 ハーフウェイ・ライト
9 ワン・モア・ライト
10 シャープ・エッジ
商品リンク: https://Linkinparkjp.lnk.to/preorderPr

■来日情報
『LINKIN PARK ONE MORE LIGHT WORLD TOUR』
Special Guest:ONE OK ROCK
幕張メッセ 国際展示ホール9~11
11月2日(木) open 16:00 / start 19:00
11月4日(土) open 15:00 / start 18:00
11月5日(日) open 15:00 / start 18:00
 スタンディング ¥8,800 (ブロック指定)(税込)
 VIP SS ¥60,000 (税込) (アリーナ前方観覧エリア・Linkin ParkとのM&G・グッズ付き)
 VIP S ¥15,500 (税込) (アリーナ前方観覧エリア・グッズ付き)
 ※LINKIN PARKのパフォーマンスは全日程90分を予定
 ※ONE OK ROCKのパフォーマンスは全日程60分を予定
 ※VIP SS Linkin ParkとのM&G詳細は後日発表

公演特設サイト:
http://www.hipjpn.co.jp/live/lp/

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