ねごと、WEAVERはなぜダンスミュージックを志向した? “ピアノ”の特殊性から考察

 ねごとは、先に引用した『アシンメトリ e.p.』リリース時のインタビューにもあるように、「かわいい」や「ポップ」ではなく「かっこいい」音楽を目指していくなかで、実際にMCなしでライブをやってみて手応えを掴んだこと、曲と曲とを繋ぐために4つ打ちの曲が自然と増えていったこと、さらにその際元々バンドが持っていたエレクトロ的な側面や浮遊感を活かせると気づいたことが影響し、ダンスミュージックというひとつの方向性に特化していった。そのため、ねごとが鳴らすダンスミュージックは必ずしもアッパーとは限らない。例えば、「シグナル」(2017年リリースのアルバム『ETERNALBEAT』収録曲)ではダンスミュージックでは通常御法度とされている「ビートを止める」という手法が採用されている。しかも計16小節、時間で言うと約30秒にもわたる長きにわたって。かなり大胆である。

 このことから、ねごとが求めているのは「聴き手を(身体的な意味で)踊らせること」ではないと分かるだろう。さらに言及すると、この箇所ではボーカル以外は旋律に目立つ動きがないため、歌を聴かせることを目的としてビートを止めたことが予測できるが、その背景には蒼山幸子(Vo.&Key.)のボーカリスト/ソングライターとしての成長がある。「私は去年から弾き語りのライブをやるようになったのもあって、「自分らしい歌って何だろう?」って考える機会がすごく増えたんです。その中で、今まで歌詞は曲の中の人の気持ちになって書くことが多かったんですけど、今の自分がリアルに感じてることを、どこか一行でもいいから入れようって考えるようになって」と蒼山自身は話しているが、だからこそねごとの鳴らすダンスミュージックは、機械的な冷たさではなく、人間味のある温かさを感じられるようなものになりえたのだろう。

 一方WEAVERは、先に引用した『Night Rainbow』リリース時のインタビューにて杉本 雄治(Pf.&Vo.)が「この2年くらいのモチベーションとして、「ライブでどう表現していくのか?」っていうのがすごく大きくて。僕らはピアノとベースとドラムっていう編成なので、ステージで動きを出すこともなかなか難しいんです。その中でお客さんをどう楽しませるかっていうことだったり、ライブのストーリーであったり、自分が演奏する楽器が曲の中でどう動いていくのかっていうことを曲作りの時点から考えていくようになって」と話しているように、曲作りの方向性が“ライブで活きる”という部分に定まっていき、その過程で、ダンスミュージックの持つ昂揚感と3人がライブに求めるものとが自然と結びついていった。

 そんな中で、彼らが鳴らすダンスミュージックは海外のトレンドと共鳴するようなサウンドにどんどん近づいていっている。2016年10月リリースのシングル『S.O.S. / Wake me up』収録曲の「S.O.S.」は裏拍(2拍目と4拍目)にアクセントを置いたビートが主となっていて、Aメロ以外の部分ではシンコペーションのリズムを組み込んだリフがシンセサイザーやピアノ、ベースによって代わる代わる鳴らされている。ビルボードのナショナルチャートなどを見てみると分かるように、ブルーノ・マーズ「24K Magic」やサム・ハント「Body Like A Back Road」、KYLE「iSpy (featuring Lil Yachty)」など、現在の海外音楽シーンでは、ジャンル問わず“裏”や“ループ感”を強調する手法を取り入れたポップソングが多い。これはねごとも同様だが、現在、WEAVERは、例えば杉本がハンドマイクで唄っている間に奥野&河邉 徹(Dr.&Cho.)がピアノで連弾をしたり、3人揃ってサンプリングパッドを叩いたり、かと思えばツインドラムになったり……と元々の担当パートに拘らない自由な演奏をしていて、ステージ上の“動き”を出すことには成功している。そんな中、洋楽的なノリを実際に現場へ持ち込むことで観客側にも”動き”をもたらすこと、さらに言うとそれによって、 “頭拍で腕を振り上げる”というような日本のライブシーンでありふれた盛り上がりの光景を変えることを彼らは目指しているのかもしれない。ライブハウスやホール、ショッピングモールなど場所に拘らず積極的にツアーを行っているのもおそらくそのためだろう。

 このように、ダンスミュージックに傾倒していったという点は共通しているものの、その理由や目的、アウトプットされた音楽の方向性は両者で大きく異なっている。そうして表出した他アーティストとの差異が現在の2組にとっての「ねごとらしさ」や「WEAVERらしさ」を形成しているといえるし、明確な意思が基にある両者の変化は安易に“流行に乗っかった”結果などではないことは明らかだろう。だからこそ言ってしまえば、今自分たちがやっていることに対して「やりきった」という感覚を覚えた時、あるいは今抱えている目的とは別の方向に視線が向いた時には、彼らが鳴らす音楽はまた変わるかもしれないし、つまりこのダンスミュージック路線がずっと貫かれるとは限らないだろう。しかしどちらにせよ、どんどん自由になっていく2組の音楽は、これからも新鮮な驚きをもたらしてくれるはずだ。

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN'ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

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