アジカン、ウルフルズ、ペトロールズ……トリビュート&カバー盤が映すグループの本質と時代性
トリビュート・アルバムのリリースは、対象になるアーティスト・バンドの周年や、その後の活動の布石を打つ意味合いが多い。例えば、2014年に本人は活動休止する中、デビュー15周年を記念してリリースされた『宇多田ヒカルのうた 13組の音楽家による 13の解釈について』。同作は、盟友とも呼べる椎名林檎や浜崎あゆみから、意表を突く井上陽水まで、まさに「13の解釈」がなされ、昨年、本人が活動再開する上でも重要な意義を持ったカバー・アルバムである。また、スピッツの不朽の名作『ハチミツ』のリリースから20年を記念してアルバムごとまるっとカバーした『JUST LIKE HONEY ~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~』に及んでは、90年代以降の日本のロックシーンに確固たる金字塔的なアルバムが存在することを定義するような企画でもあった。一過性のカバー・ブームを通過して、しっかり残っていくアーティストや作品を定義づける作業の一つとしてトリビュートやカバーが、10年代の日本の音楽シーンでも大きな意味を持ち始めたと言っていいだろう。そんな中、今春はいきなり注目度の高いトリビュート・アルバムの発売が続く。直近のリリースを見つつ、その傾向を検証してみたい。
ASIAN KUNG-FU GENERATION:ロックの言葉を更新し続けていたと再認識
まず、結成20周年を迎えたASIAN KUNG-FU GENERATION(以下:アジカン)へのトリビュート・アルバム『AKG TRIBUTE』。まず注目するのは参加バンドやアーティストと、彼らがどの曲をカバーするかだろう。ざっと列挙してみると「夏の日、残像」/ amazarashi、「君という花」/ KANA-BOON、「リライト」/ Creepy Nuts、「踵で愛を打ち鳴らせ」/ the chef cooks me、「迷子犬と雨のビート」/ シナリオアート、「Re:Re」/ じん、「アンダースタンド」/ BLUE ENCOUNT、「ムスタング」/ リーガルリリー、「君の街まで」/ never young beach、「未来の破片」/ 04 Limited Sazabys、「ソラニン」/ yonige、「N.G.S」/ 夜の本気ダンス、「ブラックアウト」 / LILI LIMITというラインナップ。いずれもアジカンに影響を受けてきたことは前提として、彼らが全員参加するフェスをイメージできるぐらい、参加アーティストと同世代のリスナーが容易に想定できるメンツでもあるのだ。
そして、各々が挑んだ楽曲の腹落ち感はアジカンファンにも、例えばネバヤンファンにもあったんじゃないだろうか。KANA-BOONがカバーする「君という花」は元祖・四つ打ちロック・ナンバーでもあり、リフとパワーコード主体というKANA-BOONがアジカンから大きく影響された曲作りの部分、そして案外クセの強いアジカン・後藤正文(Vo / Gt)の歌メロや歌唱の中では、カラオケでも歌える平易さがKANA-BOON・谷口鮪(Vo / Gt)というキャッチーな破壊力のあるボーカリストに異様にハマる。とはいえ、参加している20代のバンドそれぞれがすでに自身のアーティスト・カラーを十二分に持っているだけに、アジカンファン以外にも認知度の高い曲を彼らがいかに“料理”するか? は、広くロックファンの興味をそそるだろう。それにしても誰もが腰が引けてしまいそうな「リライト」をCreepy Nutsに振る企画者の優しさ(!?)、もしくは“リライト”の本来の意味から、現代最強のリリシストであるR-指定の本領を発揮させる意図もあったんじゃないかと思う。ーーそう。後藤正文という表現者は日本のロックの言葉を更新し続けていたことも、このトリビュート・アルバムで再認識できるのだ。
ウルフルズ:男も女もない人間の共通する感情や機微を浮き彫りに
ウルフルズもデビュー25周年を記念したトリビュート・アルバム『ウルフルズトリビュート~Best of Girl Friends~』がリリースされたばかりだ。トータス松本(Vo)の「あえて女性の声で自分たちの楽曲を歌ってもらったら面白いのでは?」というアイデアを発端にした特徴的なカバーだ。
とかく男くさくソウルフルで、女々しい部分も男だからこそ表現できるウルフルズの楽曲を女性アーティストがカバーすることで起こる化学反応が、いずれのアーティストも面白い。竹を割ったような、ある種のドライさで阿部真央が歌う「ええねん」の痛快さ、まるで彼女のテーマソングなんじゃなかろうか? と錯覚するUAが歌う「歌」の原曲から大胆にアレンジを変えた超越的な表現、泣きながら小さく口ずさむような、ふくろうずの「バンザイ~好きでよかった~」から、ソウル、ロック・シンガーとしての心意気をぶつけるようなSuperflyの「ヤング ソウル ダイナマイト」など、男と女の永遠に重なることのない違いと、男も女もない人間の共通する感情や機微、どちらも浮き彫りにしてしまうウルフルズの楽曲の力は、ジャンルではない「ソウル」がなんなのかを思い知らせてくれる。