冨田勲追悼公演『ドクター・コッペリウス』に見た、「混然とシチュー化」した表現の高み

冨田勲追悼公演『ドクター・コッペリウス』を振り返る

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 ハイライトのひとつは、第4楽章「惑星イトカワにて Landing on The Asteroid 25143 Itokawa」だろう。

 本章では、スクリーンのなかのミクと、コッペリウス役の風間無限が手を取ってダンスを披露する。生身のバレエダンサーとミクのデュエットは、十分にシームレスで、違和感のないもの――異質と思われるものが渾然一体となる、冨田作品そのものだった。冨田本人が最後まで演出していれば、より高度な融合がなされたのかもしれないが、やはり、はるか未来を懐かしむような、不思議な気分にとらわれる。生音と電子音だけでなく、バレエというフィジカルな芸術とCGアニメーションまで、「混然とシチュー化して」しまう。これは、冨田に多くの劇伴音楽を依頼した手塚治虫の言葉だ(冨田勲×初音ミク『ドクター・コッペリウス』公式プログラムより/初出は『放送文化』1971年12月号)。

 ヴィラ=ロボス作曲の『ブラジル風バッハ第4番』の第2曲、「コラール:奥地の歌」に基づく第5楽章「嘆きの歌 Song of Grief」は、ミクの歌唱とオルガン伴奏が一体となり、ドラマを分厚いものにしていく。星が瞬くようなパルス音も印象的だ。

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 宇宙、永遠性、生命など根源的なテーマを持ち、コッペリウスを象徴するトランペットが心に響く第6楽章「時の終わり The End of The Time」を経て、最終楽章「日の出 Rise of The Planet9」に至る。命を失おうとするコッペリウスと、彼のなかに流れ込むように響くミクの歌声――観客から「ブラボー」の声も上がったラストシーンは、ぜひ、すみだトリフォニーホールでの再演で確かめてほしい。

 冨田勲の遺作は、その名にふさわしい感動を与えてくれる。システムアーキテクト/エレクトロニクスを担当したことぶき光を始め、冨田が信頼を寄せたプロジェクトメンバーが送る『ドクター・コッペリウス』は、さらに洗練された作品として、再演を迎えるだろう。おそらく最期の1秒まで、音楽への情熱と限りない好奇心を持ち続けた偉大な音楽家に敬意を表しつつ、来年4月を楽しみに待ちたい。

(取材・文=橋川良寛/写真=(C)Crypton Future Media,INC.www.piapro.netphoto by 高田真希子)

<2016.11.11fri,12sat 開催> ドクター・コッペリウス公演の終演後インタビュー

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