でんぱ組.incがベスト盤で提示した、グループとしての“更新” 「WWDBEST」楽曲&MVから考察
2016年12月21日に発売されるでんぱ組.incのベスト・アルバム『WWDBEST ~電波良好!~』に収録される新曲「WWDBEST」は、でんぱ組.incのひとつの到達点だ。作詞は、前山田健一、畑亜貴、meg rock、かせきさいだぁ、只野菜摘、NOBE。そして作曲には、玉屋2060%(Wienners)、浅野尚志、釣俊輔、Tom-H@ck、小池雅也が名を連ねている。総勢11人によって制作された楽曲など破綻してもおかしくないはずなのに、ごくナチュラルに聴けて驚いた。これはどういうことなのだろうか。
しかも「WWDBEST」のMVも、これまででんぱ組.incのMVを手掛けてきた志賀匠、スミス、田辺秀伸、鶴岡雅浩、BOZO&YGQ、山崎連基による合作だ。古川未鈴は志賀匠、相沢梨紗は鶴岡雅浩、夢眠ねむは田辺秀伸、成瀬瑛美は山崎連基、最上もがはスミス、藤咲彩音はBOZO&YGQが担当している。6人のメンバーそれぞれに6組の監督がいるわけだ。
「WWDBEST」のMVには、過去のでんぱ組.incのMVのセルフ・オマージュや、過去の衣装が多数登場している。その中でもまずうなったのは40秒頃。でんぱ組.incの最新シングル「最Ψ最好調!」のMVの藤咲彩音のシーンを、彼女自身が見ている部分だ。「最Ψ最好調!」のそのシーン自体が、藤咲彩音の加入時を元ネタとしているので、それを藤咲彩音が見ているというのは複雑なメタ構造だ。1分30秒頃からは、ステージで踊るメンバーの前を、過去の衣装を着たメンバーたちが走っていく。3分35秒頃からヲタ芸のシーンが始まるのは、秋葉原ディアステージから生まれたでんぱ組.incらしい。
かと思えば、2分10秒過ぎでは成瀬瑛美が「yesterday」と「tomorrow」を両手で合体させている。これは気のせいでなければピコ太郎の「PPAP」ネタ……。旬なネタである。
視覚的な情報量が異常に多いのだが、単にでんぱ組.incの歴史を振り返っているだけではなく、メンバーそれぞれの現在の魅力を切り取ることにも成功しているMVだ。
そして、『WWDBEST ~電波良好!~』は実に3枚組。さすがに身構えつつ聴いたのだが、懐かしい楽曲や、あまりなじみがないものの良さを発見できる楽曲、そして最近までの楽曲が並び、あっという間に最後の最後の「WWDBEST」になってしまった。
「でんぱ組.inc」と聞いて、どんな音楽をイメージするかは人それぞれだろう。ある人が思い浮かべるのは、情報を圧縮したかのようなメロディーとサウンドがイントロ、Aメロ、Bメロと続き、一気に開放感のあるサビへと展開していく「でんぱれーどJAPAN」のような楽曲かもしれない。
またある人が思い浮かべるのは、「冬へと走りだすお!」や「くちづけキボンヌ」のような渋谷系の系譜を受け継ぐ楽曲かもしれない。これらは、プロデューサーの「もふくちゃん」こと福嶋麻衣子の趣味の産物だった。渋谷系と言えば、小沢健二の「強い気持ち・強い愛」も、でんぱ組.incは自分たちのカラーに染めあげてカバーしていた。
あるいは、「W.W.D」や「W.W.D II」のようなドラマテックな展開を聴かせる楽曲を思い浮かべる人もいるかもしれない。清竜人が作詞作曲編曲した、ミュージカル・ソングのような「Dear☆Stageへようこそ♡」もそこに分類できそうだ。
そうした楽曲群の一方で、でんぱ組.incには「檸檬色」のような普遍的なポップスもある。そして「WWDBEST」で真に驚いたのは、「WWDBEST」がそうした普遍性を志向しているように感じられたからだ。11人もの作家が参加した異常な楽曲なのに。