ペンタトニックス、なぜ『パズドラ』CMに抜擢? 先進的なアカペラの魅力をキャリアから追う
その前に、グループのそのものの成り立ちを簡単に確認しておこう。ペンタトニックスの結成は「ダフト・パンク・メドレー」を翻ること、さらに数年。もともとはアメリカのテキサス州アーリントンに住むスコット・ホーイング、カースティン・マルドナード、ミッチ・グラッチという現在もリード・ボーカルを務める3人が幼なじみで、高校時代にボーカル・トリオを結成していたのが始まりだった。形態はその頃からアカペラで、まだ10代だった3人はレディー・ガガの「テレフォン」の動画を発表している(ちなみに下の動画がアップされたのは2010年4月となっている)。
その後3人は主にこうしたネット上での活動を通じてアヴィ・カプラン(ボーカル・ベース)とケヴィン・オルソラ(ビートボクサー)と知り合い、遠距離にも関わらず、お互いにコンタクトをとりながら、5人組のアカペラ・グループへと発展していく。ちなみにグループ名はペンタトニック・スケール(五音音階)からとったもの。やがて5人はアカペラのオーディション番組『ザ・シング・オフ』に出場することになり、その大会の直前に初めて顔を合わせたばかりなのに、見事に優勝を飾ってしまったのだ。
思えばここには、動画サイトを主軸にしたインターネット、さらにオーディション番組と、まさに現代の音楽文化を反映しながらの出会いとサクセスストーリーがある。次の動画はその4年後、『ザ・シング・オフ』出場時の思い出を5人が振り返っている様子で、投稿主はメンバーの自主アカウントのSUPERFRUITになっている。
この番組での優勝が2011年で、翌2012年にはインディーでの初作品をリリース。先ほどの「ダフト・パンク・メドレー」が2013年の後半のことで、2014年に入ってからメジャー・デビューを果たしたというわけだ。
5人が日本に来るようになったのも、この2014年からだった。その時点までのミニアルバム2枚をバンドルした日本初アルバムがソニーから出たのが同年の夏。このアルバムには日本盤のみ映画『アナと雪の女王』でおなじみの「レット・イット・ゴー」のカバーを収録している。そして、サマーソニックへの出演で初来日が実現。この頃から日本のメディアで取り上げられることが増えはじめ、僕もTV番組に出てパフォーマンスしている5人を見かけ、イキイキと歌う姿とそのアカペラの魅力を楽しんだものだ。
この年には初のクリスマス・アルバム『ザッツ・クリスマス・トゥー・ミー』もリリース。「きよしこの夜」「サンタが街にやってくる」などのスタンダードなクリスマスソングを中心にしながらチャイコフスキーの「くるみ割り人形」なども収めたもので、ムーディーな仕上がりが評判となった。ちなみにこの日本盤の最後には、山下達郎の名曲「クリスマス・イブ」の英語によるカバーバージョンが特別に収録されている。
2015年は6月に日本で初となる単独公演として4都市6公演をまわるツアーを開催。また本国では「ダフト・パンク・メドレー」でグラミー賞の「最優秀インストゥルメンタル/アカペラ・アレンジメント」部門を獲得、さらにアメリカン・ミュージック・アワードでは「スター・ウォーズ・メドレー」を披露するなど、カバーをアカペラで歌うグループとしてのイメージがいっそう定着していった。しかし、その方向性は徐々に変わっていく。この年の10月にリリースしたフルアルバム『ペンタトニックス』では、それまでにも少しずつ発表していたオリジナル楽曲を全面にフィーチャーしたのだ。この作品はポップ・アルバムとしても優秀で、5人のチャレンジは見事に成功を収めることとなり、アカペラ・グループとしては史上初めて全米アルバム・チャートの首位に立ったのである。さらにこのアルバムのリード・シングル「キャント・スリープ・ラブ」では渡辺直美がフィーチャリング参加した日本版ミュージック・ビデオも作成され、話題となった。
快進撃は2016年に入っても続き、「くるみ割り人形」によって2年連続のグラミーを受賞。ペンタトニックスは名実ともに世界トップクラスのアカペラ・グループとなった。そうした中で5人は世界ツアーを敢行、その間にも2度の来日を果たし、再びサマーソニックへの出演も実現させる。この時期には「チョコレイト・ディスコ」「ポリリズム」といった曲を含む「Perfumeメドレー」を発表。この曲では初めて日本語で歌う歌詞もあり、そうした話題性も相まって、日本でさらに幅広い層のリスナーにアピールすることとなった。
そしてこの11月には、クリスマス・アルバム第2弾の『ペンタトニックス・クリスマス』がリリースされたばかり。今作ももちろんクリスマスソングのカバーが中心だが、そこにオリジナルの2曲を入れたり、先頃惜しくも亡くなったレナード・コーエンの名曲「ハレルヤ」を歌ったり、あるいは名門ボーカル・グループのマンハッタン・トランスファーをフィーチャーしたりと、今の5人の創意工夫が感じられる仕上がりだ。