ペンタトニックス、なぜ『パズドラ』CMに抜擢? 先進的なアカペラの魅力をキャリアから追う

ペンタトニックス『パズドラ』CM歌唱抜擢の理由

 と、ここまで駆け足でペンタトニックスについて書いてきたが、僕が3年前に初めて耳に、いや、目にもして以来、もはや世界屈指の有名なアカペラ・グループになった今でも、その存在感はかなり個性的なものに映っている。

 たとえばアカペラと言って多くの人が思い浮かべるのは、複数の人間がキレイな声を重ねることで作り上げていく歌だろう。とくに日本では2000年代の初頭にTV番組内の企画「ハモネプ」でアカペラの人気が盛り上がった時期があり、覚えている人も多いはず。これと前後してゴスペラーズやRAG FAIRが世に現れ、アカペラは日本の一般の音楽ファンにも通りやすい言葉となった。彼ら以外にもTRY-TONE、INSPi、Baby Boo、SMOOTH ACEといったグループの名が思い浮かぶし、鈴木雅之が在籍したシャネルズにもアカペラの要素はあった。そして何よりもペンタトニックスもカバーした山下達郎は自分ひとりの多重コーラスでアカペラ・アルバムを作ったりしている。ちなみにアカペラというよりボーカル・グループというほうが的確だが、もうすぐ武道館公演に臨むLittle Glee Monsterは、実はペンタトニックスとは初来日時に共演済みだったりする。

 アカペラを音楽性の重要な要素としている海外なグループとしては、今回のクリスマス・アルバムの「ホワイト・クリスマス」のカバーでもコラボレーションしているアカペラ界の大御所マンハッタン・トランスファーや、アメリカのTAKE 6やロッカペラ、ボーイズ・Ⅱ・メン、14カラット・ソウル、ナチュラリー7、イギリスのキングズ・シンガーズ、スウェーデンのリアル・グループなどが有名どころ。またK-POPの東方神起も5人でアカペラを歌っていた時期もあった。ここまで書くと、アカペラをグッと身近に感じてもらえるのではないだろうか。

 ただ、ペンタトニックスはこうした先例をいくつも考えても、他に類を見ないアカペラ・グループだ。全員がまだ20代である5人は、結成に至る出会いの過程もじつに今風であるし、何と言っても大きいのは音楽性が非常に先進的で、しかも雑食的であること。音楽ファンとしては、そここそがこのグループの最大の魅力であると感じるほどだ。

 まずメンバーの歌と発声の技量の高さ、そしてボイスの響きの個性の違いも含めたコンビネーションの秀逸さは大前提として……その上に大きくあるのは、楽曲のアレンジ力とそれを実現させる技術の優秀さである。それに加えて、別の曲をつなぎ合わせてメドレーという形でマッシュアップし、ひとつの楽曲にまとめ上げる感覚には、エディット力とも表現したくなるほどの達者さがある。

 中でも特徴的なのは、ベース・ボーカルとビートボックスの存在だ。彼らのアカペラの基盤には、クラシカルなドゥーワップやコーラス・グループからの流れだけでなく、明らかにヒップホップなクラブ・ミュージック、エレクトロニカを当たり前のものとして聴いてきた世代特有の感性がかいま見える。

 それゆえにペンタトニックスは、クリスマスやトラディショナルな歌をまっとうないい曲として歌える能力もありながら、映画音楽から最新のポップス、ロック、EDMまで対応する幅の広さがキープできているのだ。5人の声にかかれば、『ニンジャ・タートルズ』もマイケルもフリート・フォクシーズも、みんな同じまな板の上に乗ってしまうのである。

Pentatonix - We Are Ninjas (Official) | Teenage Mutant Ninja Turtles (2014 Movie)
Evolution of Michael Jackson - Pentatonix
[Official Video] White Winter Hymnal - Pentatonix (Fleet Foxes Cover)

 メンバーそれぞれのルーツが雑多であるのも現代的というか、今の世界の空気を反映していると思う。またYouTubeからブレイクする際に、ビジュアル面として5人の鮮やかなカラーリングやスタイリングも奏功しているのではないだろうか。重ねて言うが、そこもまたじつに今風だ。

 以上、ペンタトニックスの魅力について述べてきたが、ここまでミクスチャー的な感覚を持っているグループだとわかってもらえれば、5人がインストのゲーム音楽を歌うことにさほど違和感を覚えないのも理解していただけるだろう。それにここまでの経歴のエピソードを通じて、日本に対して特別な思いを持っているのも伝わっているはず。今回のパズドラの企画も日本サイドとの良好な関係性があってこそ実現したものと思われる。

 今回の「Departure」による大量のメディア露出をきっかけに、このユニークきわまりないアカペラ・グループの魅力に、今一度触れてみてほしい。

(文=青木優)

■MV情報
「パズル&ドラゴンズ」テーマ曲“Departure”「ペンタトニックス篇」スペシャル映像
Gyao!視聴リンク

■リリース情報
『ペンタトニックス・クリスマス(ジャパン・エディション)』
発売中
価格:2,200円+税
初回生産分のみステッカー封入
日本限定ジャケット写真
歌詞・対訳・解説付

iTunes
*iTunes、iTunes Storeは、Apple Inc.の商標です。

「Departure」
2016年12月5日配信スタート
単曲配信
iTunes
【期間限定特別価格】 150円(2017年1月5日まで)

ソニー・ミュージック日本公式ホームページ
日本公式Twitter
海外公式ホームページ
公式YouTubeチャンネル「PTXofficial」

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