陰陽座が明かす、妖怪をコンセプトに掲げる理由「海外のバンドが竜や魔法や騎士なら、こっちは妖怪だ」

陰陽座が語る、妖怪ヘヴィメタルの真髄

「HR/HM全部のエッセンスを自分のバンドに取り入れたい」

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招鬼(ギター、コーラス)

ーー今作には、いわゆるHR/HMの範疇から外れるタイプの楽曲もありますよね。例えばラストナンバーの「風人を憐れむ歌」のようなポップ寄りの楽曲から、「轆轤首」みたいにダンサブルなものまで、1曲1曲を取り出してヘヴィメタルとして聴くと「おっ!?」と思うものの、アルバムの流れで聴くととても自然なんです。

瞬火:そうだと思います。陰陽座は結成したときから、あんまりヘヴィメタルバンドがやらない静かな曲だったり楽しい曲だったりを積極的にやってきていて、その幅を作品ごとに少しずつ押し広げてきているという自負があります。いわゆるヘヴィメタルを聴かない人にとってヘヴィメタルとは、金切り声を上げて常にドカドカ、ジャギジャギしてやかましい、音楽的な滋味深い部分のない粗雑な音楽と捉えられていると思うんですけど、そんなことはないと。

ーー確かに。

瞬火:今おっしゃっていただいたアルバム最後の曲は、ちょっとアコースティカルで清涼感があるタイプで、こういう曲がHR/HMの世界にないかというと、あるんですよ。で、ダンスナンバー的なアプローチをHR/HMのバンドがしたことがないかといったら、まったくあるんですね。つまり、これをひとつのバンドがやるから「こんなことも、あんなこともやるの?」となるだけで、HR/HMを愛聴してこられている方にはある程度耐性があるはずなんです。僕は爽やかで軽いハードロックからゴリゴリのデスメタルまで、ヘヴィメタルというものをすべて愛しているので、その全部のエッセンスを自分のバンドに取り入れたいと思っていて。ともすれば、今までHR/HMバンドが誰もやらなかったようなアプローチすら、陰陽座がトライすれば成り立たないようなことはないと思っているんです。それぐらいHR/HMというジャンルって懐が深いというか芯がしっかりしているし、バンドの芯がしっかりしていればちょっとポップなことをやっても「ああ、もうダメだ」とはならないと思っています。僕は自分が好きないろんな音楽の要素を、この陰陽座というバンドを通して「これもヘヴィメタルだ」といって作品にすることに躊躇がないですし、それをやるのが陰陽座だと思っているので、いろんな楽曲が入っていると思っていただけたということは、今回そのようにできているということなので単純に嬉しいです。

ーー普段ヘヴィメタルを聴かない人たちには先ほどおっしゃったようなパブリックイメージがあるかもしれませんが、このアルバムに入っているいろんなタイプの曲の中には1曲でも琴線に触れるものは確実にあると思うんです。

瞬火:そうですね。ヘヴィメタルを聴かない、ヘヴィメタルしか聴かない、それはまったくの自由なんですけど、いざふいに触れてみたときに、まずジャンルから確認する必要はないじゃないですか。耳に入って「これいいな」と思ったけど、「これメタルだよ?」と言われて「じゃあ聴かない」というのはおかしいと。だからどんな角度から、どんな曲から入ってもらっても、陰陽座の世界に足を踏み込んでもらえる可能性や余地は自分たちとしてはあると思ってます。だからといって、ちょっとポップなところから騙されて入ってきてほしいと狙っているわけでもないですけどね。その入り口はフリーというか、誰が入ろうが入るまいが、とりあえず鍵は開けてますというだけの話です。

「タイアップで熱いオファーがあるのは本当に幸せ」

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狩姦(ギター、コーラス)

ーーそれともうひとつ、今作収録の「愛する者よ、死に候え」はパチスロ『SLOT バジリスク〜甲賀忍法帖〜III』の主題歌です。こういうタイアップに対しては、瞬火さんはどのように考えていますか?

瞬火:これに関しては、陰陽座はある意味恵まれているバンドだと思っていまして。その「恵まれている」というのは、タイアップがたくさんいただけているということではなく、完全に陰陽座というバンドの世界観を以てしてこの物語に曲を書き下ろしてほしいと、そういう熱いご指名をいただけることなんです。陰陽座より訴求効果の高い有名なアーティストは掃いて捨てるほどいるわけで、陰陽座というある種マニアックな、しかもヘヴィメタルバンドというものに主題歌を書き下ろしてくれとわざわざ頼むというのは、本当にありがたい話なわけで。

ーー確かにそうですね。

瞬火:ええ。陰陽座は過去に「甲賀忍法帖」という曲を、アニメ『バジリスク〜甲賀忍法帖〜』の主題歌として書き下ろしていて、それがあって今回はまた違った視点でというオファーがあったんです。本当に口説いていただいて作らせていただいたという、そういう関係性って本当にありがたいと思うんですよ。そもそも陰陽座の作る曲っていうのはテーマがはっきりしすぎていて、タイアップしづらいんです。そのかわり、これに対して曲を書いてくれと言われたら、絶対にこれとしかいいようがないものを作るので、「陰陽座に頼んだらバシッとピッタリな曲を書いてくれる」と思ってくださる方が少数でも、いろんな業界にいてくださるのは本当に嬉しいです。

ーーバンドの世界観がはっきりしているからこそ、タイアップを発注する側も決め打ちでオファーするわけですね。

瞬火:だからある意味相思相愛というか、そういう熱いオファーがなければ1曲もタイアップすることがないわけですから、それがあるということが本当に幸せですね。今回の『SLOT バジリスク〜甲賀忍法帖〜III』でいうと、これは忍者の戦いの話で、山田風太郎先生の『忍法帖』シリーズから端を発しているんです。僕自身、山田風太郎先生の作品をこよなく愛しているので、陰陽座では「○○忍法帖」という曲を昔からずっと作っていて。だからずっと忍法帖、忍法帖と言っていたバンドが「甲賀忍法帖」という曲を作るというのは、まったく違和感がないことなんですよね。

ーーそうですよね。

瞬火:これをほかのバンドさんがやると「今、あえて和ですか?」という見え方をしてしまうでしょう。でも陰陽座のアルバムに「○○忍法帖」という曲が入っていたとしても、何の不思議もないという。だからもうひとつ恵まれているのは、その作品に対して100%集中して曲を作って、そこで自分たちの世界観から一歩も踏み外すことがなく、自分たちが常にやっているスタイルと世界観の中でオーダー通りのものを作ることができるということ。オーダーするほうもそういうものしかオーダーしないと思いますけどね。日本的なものでちょっとヘヴィメタル的な熱さが欲しいけど、女性ボーカルの突き抜ける感じも欲しいとしたら、まずは陰陽座と思ってもらえるような、そういう音楽をこれまで作ってきたと思いますし、そういうオファーをされて外すつもりはないので。

ーーそのアルバムがリリースされて2週間と経たないうちに、全国ツアー『絶巓の迦陵頻伽(ぜってんのかりょうびんが)』がスタートします。

瞬火:今回はちょっとインターバルが短いんですけど、アルバムを聴き飽きた頃にツアーというよりはちょうど盛り上がっているタイミングにやれていいのかなと。当然この『迦陵頻伽』というアルバムを、少なくともまるごと味わっていただけるライブになると思います。

ーー今回はすべてホール会場なんですね。

瞬火:そうなんです、陰陽座のくせに(笑)。たまにはいいでしょう。今回のアルバムをまるごと味わっていただくのに、少なくとも今回はホールという空間が合っているんじゃないかという意図がありまして。ホールでのライブで『迦陵頻伽』の楽曲がどう化けるのか、楽しみにしていてください。

(取材・文=西廣智一)

■リリース情報
『迦陵頻伽』
発売:2016年11月30日
価格:¥3,000(税抜)
〈初回特典〉
特製スリーブ・ケース
総天然色写真冊子封入
〈収録曲〉
1.迦陵頻伽
2.鸞
3.熾天の隻翼
4.刃
5.廿弐匹目は毒蝮
6.御前の瞳に羞いの砂
7.轆轤首
8.氷牙忍法帖
9.人魚の檻
10.素戔嗚
11.絡新婦
12.愛する者よ、死に候え
(パチスロ「SLOTバジリスク~甲賀忍法帖~Ⅲ」主題歌)
13.風人を憐れむ歌

■ライブ情報
陰陽座ツアー2016 『絶巓の迦陵頻伽』
12月13日(火) 名古屋 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール(旧:名古屋市民会館中ホール)
12月16日(金) 埼玉 三郷市文化会館 大ホール
12月20日(火) 大阪 NHK大阪ホール
12月23日(金・祝) 横浜 パシフィコ横浜 国立大ホール

■オフィシャルサイト
http://www.onmyo-za.net/

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