ビッケブランカが体現する、“誰とでも接点がもてるポップス”とは? “遅咲きの大器”の個性と才能

ビッケブランカが体現する新機軸ポップス

 ビッケブランカが完成させた新しいミニアルバム『Slave of Love』は、エイベックスに移籍しての初メジャー盤。ポップスのミドル・オブ・ザ・ロードを行きながら、そこはかとなくスケール感のようなものも伝わってくるこの作品を聴けば、彼のメジャー行きは必然だったと思わずにいられない。メロディ構成にしっかりした展開があり、歌詞は視点と用いるワードに独自性がありながらも内容そのものは普遍的。誰とでも接点がもてる広がりあるポップスを、ビッケブランカは体現している。

 『Slave of Love』はインディーで出したミニアルバム『ツベルクリン』『GOOD LUCK』に続く3作目。先頃取材した際に「メジャーだからキャッチーな曲を書こうなどと意識することはまったくなかった」と話していたが、確かにことさらソングライティングの方法と方向性を変えたふうではなく、前2作からの流れを汲んでいる。つまり前2作に表れていたソングライターとしての個性と魅力を今回も大いに感じ取れるものだということ。もしも「前の2作とは印象が全然違う」とあなたが感じたなら、それは一流のプレイヤーやエンジニア(ドラムが佐野康夫、ベースが沖山優司、ギターが設楽博臣。エンジニアは渡辺省ニ郎。マスタリングはフー・ファイターズ作品でグラミーにノミネートされ、デヴィッド・ボウイの遺作も手掛けたジョー・ラポルタ)を迎えた贅沢なサウンド・プロダクションによるところだろう。

 では前2作と今作に通じているビッケのソングライターとしての特徴とは何か。まず、昂揚感と多幸感に満ち溢れた華やかでダンサブルなポップソングと、切なく心に沁み入ってくるピアノ・バラード。そのふたつが表裏一体となって存在しているのが彼の全作品に通じるところだ。前作『GOOD LUCK』だったら「ファビュラス」が前者を代表する1曲で、「TARA」が後者を代表する1曲。今作だったらオープナーの「ココラムウ」やメタボリック「enNatural」のCMソングとなった「Natural Woman」が前者で、ストリングスの音色も美しい「Echo」やピアノ弾き語り曲「Your Days」が後者。

 表裏一体と書いたように、その両方向は分断されたものとしてあるのではない。ダンサブルなアップナンバーから伝わってくるのがパーティー真っ最中の楽しさだったとするなら、バラードから伝わってくるのはそのあと家に帰って尚更襲ってくる孤独感。それは繋がりのあるものだ。またダンサブルなポップ曲のキラキラしたメロディの中にふと切なさが顔をのぞかせることもあるし、バラード曲が持つ哀しみのムードのようなものの先に希望が見えることもある。言うなればハッピー・サッド。それは例えばミーカやマイケル・ジャクソンの曲からも強く感じ取れるもので、ビッケがその両者の表現に激しく共感し、敬愛しているのも、よくわかるというものだ(ちなみに病気がちで暗くなりがちだった小学生の頃、彼はよくマイケルやSMAPの音楽を聴いて救われていたそうだ)。

 だからダンサブルな曲とバラードのどっちにビッケの本質があるのかといえば、どっちもだと言える。前作ではまだ、ピアノ弾き語りのバラードに本名の彼……山池純矢の正直な思いが色濃く表れているとするなら、突き抜けるようなファルセットを用いたアッパーな曲は誰かを演じて表現しているようにも思えなくなかった。が、今作では最早その境界線も曖昧になりつつある。前に話したとき、彼は「ビッケブランカという別人格を得たことで暗かった過去の自分を対象化できるようになり、“楽しんでもらうための音楽”という意識に立った表現ができるようになった」と言っていたが、つまりその部分がより明確になって進化したのだろう。故に、少年時代にバカにされて抱いた気持ちをズバっと言い表した「ココラムウ」のような曲と、「Echo」や「Golden」のように風景や季節感を織り込んだ短編映画のような歌詞の曲とが、違和感なく1枚の中に並びもするのだ。

 そういう意味で今作のリード曲にして表題曲でもある「Slave of Love」は、「もう解き放たれたいんだ」という切実な気持ちをミュージカルの主演俳優のように極端に振り切って表現した、これぞビッケブランカの真骨頂と言える曲。ミーカを超えてクイーンまでもを想起させるコーラスワークと大袈裟なギターソロも効き目があり、彼の個性の面白さがここで爆発している。“誰とでも接点がもてる広がりあるポップス”と文の冒頭に書いたが、そうでありながらもこれは日本だとビッケにしか書けないであろう新機軸のポップ。こうしてエンターテイナーとしての自覚も芽生えだしたこの遅咲きの大器の個性と才に大勢のひとが気づくまで、恐らくもうそんなに時間はかからないはずだ。

ビッケブランカ / 『Slave of Love』 ティザー映像

(文=内本順一)

■リリース情報
『Slave of Love』
発売:2016年10月26日
価格:¥1,944(税込)
〈収録曲〉
01 ココラムウ
02 Natural Woman
03 Slave of Love
※「Google Play Music 音楽のある生活・ウェルカム篇」CMソング
04 Echo
05 Your Days
※s**tkingz舞台「Wonderful Clunkerー素晴らしきポンコツー」三浦大知 歌唱楽曲
06 Golden
07 Natural Woman(English)
※メタボリック「enNatural」CMソング

■ライブ情報
『ビッケブランカ Slave of Love TOUR 2017』
1月9日(月・祝) 福岡ROOMS
1月13日(金) 名古屋SPADE BOX
1月15日(日) 心斎橋JANUS
1月20日(金) 渋谷WWW
1月22日(日) 札幌SOUND CRUE

■オフィシャルサイト
http://vickeblanka.com/

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