乃木坂46『アンダーライブ』で見えた新機軸 演劇性とライブ性のバランスを読む

乃木坂46、アンダラ広島公演で見せた絶妙なバランス

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 グループの現在としてみれば、今回の中国シリーズは樋口日奈をセンターに据えたライブである。ライブ後半、アンダー楽曲の新たな一面を切り拓いた「シークレットグラフィティー」、そして樋口がセンターを務め、フロントに2期生からは寺田蘭世、渡辺みり愛が入る「裸足でSummer」へと続く流れで、このアンダーライブが15thシングルに基づいたメンバー構成であることが前面に出る。興味深いのは、センターとしての樋口の存在感が、サイドを固める伊藤万理華、井上小百合との関わりの中でひときわ浮かび上がるということだ。15枚目シングルCDにユニット曲「行くあてのない僕たち」、およびそれに連動したショートムービーが収録されたように、今回のシングルで伊藤万理華と井上小百合の二人はアンダーメンバーでありつつ、やや特異な位置にいる。すでにアンダーのセンターを経験し、選抜メンバーとしても成果を出し続けているこの二人と、そこに新たに伍する存在としての樋口という三者の構図が、現在のアンダーのフロントに深みをもたらしている。本編ラストのブロックでは、伊藤万理華センターによる「命は美しい」が披露される。ここで、「シークレットグラフィティー」等では樋口を中心にしていた三者の位置関係に変化が生じることになるが、三人が楽曲によって臨機応変に位置を変えることでむしろ、先にセンターの景色を見ていた二人と同じ大きさで並ぶ樋口の存在が引き立って見える。同時に、「命は美しい」の選抜メンバーだった伊藤万理華が中心に立ってパフォーマンスすることによって、昨年から今年にかけてのグループの来歴を振り返るような絵も重なって見える。

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 「命は美しい」ののち、井上がセンターの「自由の彼方」から「きっかけ」へと至るこの最終ブロックでは、伊藤や井上らに樋口が背中を押されて中心へと立つ、象徴的な振付が用意されている。ここにきて、今年のアンダーライブが表現する演劇性の高い振付と、メンバーそれぞれの現在を踏まえた構図とがひとつに重なり合って、ライブ全体を通じてのストーリー性が色濃くなる。セットリストの総仕上げとしての緊張感も高まり、現在の乃木坂46アンダーメンバーが表現できることの大きさを存分に見せてライブを締めくくった。

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 ストイックさや熱量の高さを基盤にしながら、やがて演劇性の高いパフォーマンスを志向し始めた乃木坂46のアンダーライブは今回、積み上げてきたそれらの糧とグループの現在点とを交差させながら、公演のバランスを編んでみせた。その性質上、メンバーの構成も置かれている立場も移ろっていくのがアンダーライブの常だが、グループとして歴史を重ねていくことで、アンダーライブというブランドによって体現される世界は、ますます充実度を増している。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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