牛尾憲輔の『聲の形』サントラは“劇伴”を超えた“残響アート”にーー小野島大が注目作を紹介

 フランスのポスト・ロック3人組フラグメンツ(Fragments)のファースト・フル・アルバム『Imaginary Seas』、Bandcamp等でシングル、ミニ・アルバムなどを配信リリースしていたようですが、私は本作で初めて知りました。アルバム・リーフなどに通じるメロディアスで叙情的でスケールの大きなポスト・ロック~エレクトロニカ。画期的に新しいことをやってるわけではありませんが、とにかく美しく構成力に富みスケールが大きい。フジロックなどで来日してくれると日本での人気も高まりそうです。

 

Fragments「Off The Map」(Live)

 昨年スティーヴ・アルビニが、自分の曲(ビッグ・ブラックのライブ音源)のサンプリングの許諾を求めてきたテクノ・アーティストに「私はテクノもクラブ・カルチャーも大嫌いだが、サンプリングはどうぞご自由に」と返信したメールが広告に流用され、ちょっとした話題になったことがありました(参考:NME Japan)。あまりにもアルビニらしい極端すぎる反応に全世界のアルビニ主義者は大喜びしたわけですが、その時のテクノ・アーティストがロンドン出身のパウエル(Powell)ことオスカー・パウエル。そのパウエルのファースト・アルバム『Sport』(XL Recordings / Hostess)が完成しました。正直、ビッグ・ブラックをサンプリングした曲はそんなにいいとは思わなかったんですが、これは最高に面白い。

 サンプリングを多用したジャンクでパンクでダーティで混沌として猥雑なエレクトロは、フロア・ユースのテクノというより、強いて言えば80年代のノイエ・ドイチェ・ヴェレ(ジャーマン・ニュー・ウエイヴ)に一番近い。アルビニは先のメールの中で、自分の好きなエレクトロニック・ミュージックとしてスーサイド、クラフトワーク、キャバレー・ヴォルテールやSPK、DAFといったアーティストを挙げているわけですが、『Sport』は、まさしくそんなサウンドに仕上がっていて、エクスペリメンタルでインダストリアルでチープなサウンドは、時にビッグ・ブラックの最初期の音源のようでもあります。これを聴いたらアルビニ先生も大喜びするんじゃないでしょうか。UKロンドンのアンダーグラウンドなエレクトロも相当に面白いことになっていそうです。これはぜひライブを見てみたいですね。

  東京在住のテクノ・クリエイター、ということぐらいしかわからないYUUKI SAKAIのファースト・アルバム『Hide By Launch』がスペインのレーベルDiffuse Realityから。ヨーロッパのさまざまなレーベルからのシングル・リリースを経てのアルバム・デビューです。強迫的なインダストリアルから、エキゾティックなチャントが印象的なミニマル・テクノ、子供のボイス・サンプルと銃声が行き交うトライバル・アンビエントなど多彩ですが、ざらざらとした後味を残す不穏なテクスチャーはどれも同じ。リズムの強い音楽ですが、ダンス・フロア向けというよりは、どこかの国の民俗音楽のようにも聞こえます。才気煥発の一作。

 

 そして個人的に今月もっとも嬉しかったのが、Chari Chariの復活です。バレアリックDJ/プロデューサーの第一人者・井上薫の別名義であるChari Chariのメロウでエキゾティックでオーガニックなハウス・ミュージックは、14年ぶりの新作『FADING AWAY / 狼たちの月(LUNA DE LOBOS)』(Seeds And Ground)でも健在、どころかさらに切れ味を増しています。パートナーにハードコアやポスト・ロック・バンドの経験があるというギタリスト/トラック・メイカーTakamasa Tomaeを迎え、肌にじわりと汗が滲むトウキョウ亜熱帯の熱気を振り払う、一陣の風のような開放的で美しい曲に仕上がりました。生楽器とエレクトロニックのバランスが相変わらず絶妙です。ヴァイナル盤ならではの粘り気とボリュームのあるローが気持ちのいい一作。フル・アルバムの制作を期待したいところです。

 

■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter

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