テイ・トウワが語る、トレンドを超えた音楽の作り方「アンテナが錆びてても必要な電波は入ってくる」

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 テイ・トウワが通算8枚目となる新作アルバム『CUTE』を7月29日にリリース、先行配信を7月1日よりスタートする。細野晴臣、高橋幸宏、砂原良徳、LEO今井、UAなど多彩なミュージシャンを迎えて制作された同作は、まさに“CUTE”と形容したくなる繊細かつ魅惑的なダンスミュージックが展開されている。今回は、音楽評論家の小野島大氏がテイ・トウワ本人を直撃。アルバムの制作背景や軽井沢での生活、自身のDJスタイルやリスナーとしての感覚に起きた変化などを語ってもらった。(編集部)

「今までと同じスキームでいいのか疑問を持った」

――今回、マスタリング・エンジニアが新しい人なんですね。

テイ:そうです。『LUCKY』(2013年)とその前の『SUNNY』(2011年)『BIG FUN』(2009年)は、ニューヨークのステアリング・サウンドのグレッグ・カルビとやってました。もともとはジョン・レノンやトーキング・ヘッズをやってた人で。MGMTとかもやっていましてね。このころから、いわゆるトレンドのクラブ・ミュージックをやってる人よりは、オルタネイティヴなものをずっとやってる人の方がいいんじゃないかと思って頼んだんです。エンジニアで(音は)変わると思いますよ。その前はスチュワート・ホークスっていうロンドンのメトロポリス・スタジオのエンジニアーー当時はロニ・サイズとかあのへんで圧倒的に素晴らしい仕事をしていたんですがーーにずっと頼んでたんです(最近ではロード、チャーリーXCX、ディスクロージャー、アヴィーチー、エド・シーランなど)。この頃からドラムン・ベースとかUKのトレンドじゃない人の方がいいのかなとは思ってたんですけど、やっぱりすごく上手な人だったんで頼んでいたんですね。ただ『FLASH』(2005年)ぐらいから、ノン・カテゴリー化というか、クラブ・ミュージック離れというか。そういう気分になってきた。ダンス・ミュージックだとは思ってますけど。

――あ、クラブ・ミュージックとダンス・ミュージックは違うわけですね。

テイ:そうですね。クラブ・ミュージックというのはもっとシャバいというか(笑)。そういうところでかかる音楽がクラブ・ミュージックだとするならば、僕がダンス・ミュージックと言ってるのはもっと広いもの。それこそアメリカの南部の田舎で爺ちゃん婆ちゃんが踊るようなものでもダンス・ミュージックだと思うんで。ダンス・ミュージックではあるけどトレンドのクラブ・ミュージックではないもの。

――なるほど。

テイ:それでベスト盤(『94-14』)の時、ワーナーから出した関係で、ワーナーのハウス・エンジニアの田中龍一さんを勧められたんです。音にひときわ厳しくて有名なアーティストにも信頼されている方だというし、それなら大丈夫かなとお願いしたんです。その時その時にいろんなエンジニアとやってきた過去音源を、今のフラットな視点でうまくならしてくれた。足すというよりは、当時ローとかコンプレッションが強かったものを和らげたり、うまく引き算して地ならししてくれた、そのマスタリングがよかったので、今回もその方にお願いしました。グレッグ・カルビは僕がやっているような音を好きかどうかはともかく、オルタネイティヴ感を理解しているのと、すごくアナログベースな仕事をする人で、それはそれでよかったんですけどね。

――では、今回のマスタリングは満足されていると。

テイ:満足してますね。ニューヨークにAyumi Obinata君っていう親友の音楽家がいて。昔U.F.O.のプロデュースとかやってたんですけど、今回一部ミックスをやってくれて。彼に客観的に見てもらおうと思って(打ち込みが全て終わった)音を送ったんです。そうしたら、いいんじゃないかと。歌もの、インストと、いつも以上にバラエティに富んでいるし、スカスカだけど音圧があるし、その曲ごとにやりたいことがあったので、いざ曲を並べてみると、けっこう苦労はしましたけど。

――ご自分でマスタリングをやろうとは思わないんですか。

テイ:思わないです。ミックスもやってないですから。指示はしますけど…全部自分でやる人いるじゃないですか。そうするとすごく時間がかかる。いかに短い時間でやるかしか考えてませんから、早くジャケ(のデザイン)をやりたいから(笑)。僕としては早く終わらせて「盤」にして、次にいきたいんです。

――早く区切りをつけたい。

テイ:そうですね。

――実体のあるもので。

テイ:はい、好きですね。データは便利だと思うんですよ。夜のうちにニューヨークに送っておいて、起きたら一個直って返ってくるとか。ネットの恩恵は受けてますけど…細野(晴臣)さんがおっしゃってたのは、ミックスって作業は大嫌いだと。90チャンネルでも8チャンネルでも、できあがったらそのままでいいじゃないか。でもみんなに聴いてもらうために2チャンネルにしなきゃいけない。つまりミックスっていうのは社会性なんだよテイ君、って言われて(笑)。

――(笑)それ、めちゃくちゃ面白い意見ですね。

テイ:小野島さんに聴いてもらうには2チャンにしなきゃいけない。でも僕とObinata君の間では9チャンネルでやりとりしてるわけでね。

――実際そういう意識はあるわけですか。マルチの音源を完成させるまでが自分の作品であって、そこから先は聴き手へのサービスだって意識。

テイ:うーん…やっぱありますね。最大公約数というか。でも2チャンに定着することで、次に行けるってこともあるんですよ。デザインに行けたり、次のアルバムの構想を考えだしたり。ミックスを終えて、マスタリングを終えて、デザインも完成して、そこでひとつフェーズが終わる。今はまさにそういうタイミングですよ(笑)。

――なるほど。

テイ:もちろんプロモーションとか残ってますけどね。ただ今までと同じスキームでいいのか疑問を持つようになった。アルバムを出すごとに取材を受けて、ラジオに出て、メイクして撮影してDJツアーして回って…。

――もうそういうルーティンはあまり有効じゃないかもしれない、と。

テイ:なのでDJツアーは辞めたし、そもそもクラブDJはこの2年ぐらいですごく減らしました。8割、9割ぐらい減らしたかな? だから自分の生活のスタイルは大きく変わりましたね。長らく大きな収入源ではあったけど、時間もそのぶん費やしていた。それを辞めたことで体調的にラクになった部分もあるし、ライフスタイルも大きく変わった。なので今回も、できるだけ早い段階でこうして取材を受けて、あとはなるべくやらずに済まそうと(笑)。

――なるほど(笑)。DJ仕事を減らしたのはどうしてですか。

テイ:風営法の問題があったりとか、リーマンショック後のクラブ不況とか、決定打はやはり震災があってクラブのクローズが相次いだことですね。その前後から巷のメインストリームではEDMが流行りだしてきた。でも悪いけど僕は(EDMを)基本好きじゃないんで。僕の知ってたクラブとは違うものになってきた。今の若い人はこれが面白いんだろうから否定はしないですけど、僕が知っていた楽しいクラブではもう、ないんで。無理して努力してそこで続ける必要はないかなと。

――EDMの何がイヤなんですか。

テイ:みんな同じに聞こえる。情緒がない(笑)。

――ある種、機能性に徹したダンス・ミュージックですからね。

テイ:たまにおもしろいトラックもありますけど、熱くなれるものじゃないし、できれば(そういう曲がかかるクラブに)いたくない。大音量であれを聴いていたくない。

――何が違うんですかね、それまでのテクノやエレクトロニカと。

テイ:そうですよねえ。テクノもエレクトロニカも嫌いじゃなかったんですけどねえ。うーん…もっと様式化したんですかね。

――音楽として型にはまっている感じ。

テイ:そうですね。もっとお金の匂いがするっていうか(笑)。

――VIP席でセレブ達が高いシャンパンあけまくってるみたいな。

テイ:そういう人たちが趣味でDJしてたりね。海外セレブがDJして一晩ウン千万とか(笑)。パイオニアのCDJだとUSBでプレイできるじゃないですか。そういう人たちがUSBをポーチに入れて現場に来るわけですよ。おはよーございまーすとか言って。しかもそのUSBは彼氏にもらったやつかなんかで(笑)。

――なんか実際の経験談ぽいですね(笑)。

テイ:そういう、みんなが同じ方向に向いてるみたいな風潮がつまらない。

――素人みたいな人も手軽にできちゃうような、マニュアル化された音楽であると。

テイ:そうですね! 使いやすい、乗りやすい、転ばない自転車っつーか。もちろんそうじゃない人もいるし、そういう人はこれからも生き残っていくでしょう。でも僕はもう、そういう場に毎週末いくこと自体がもうギブアップっていうか。ゼロにはしたくないですけど、減らしたい。

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