『ならば風と行け』リリースインタビュー
「役者であることをエクスキューズにしちゃいけない」中村雅俊が振り返る、42年の音楽人生
「意外とあんまり何も考えずやってきた」
ーーでも当時は若者音楽としてのフォークやニューミュージックがどんどん一般的になって、拓郎さんや井上陽水さんが出てきて。身近な目標にはなりませんでしたか。
中村:確かにそうだけど、そんなの……才能の違いとか、歴然とわかるでしょ(笑)。でも俺、(学校の)クラブやクラスでは人気者だったんですよ(笑)。歌を作るとクラブの連中、5、6人だけど、集めて聴かせると「いいじゃないすか〜」とか拍手されてね。学生時代に自分で主催してコンサートを4回やりましたからね。結構お客さんも来て。
ーーそこで野心は持たなかったんですか。
中村:なかったね…いや、ないことはないか。そこは話すと長いんだけど、学生時代からいろいろ音楽でチャンスはあったんですよ。デモテープまで作ったけど、うまくいかなくて。そのうち芝居の方に関心が向いて、大学4年になって文学座を受けて、大学行かないでずっと芝居の稽古をやって。大学4年の4月に文学座に入って、1年後の4月にはもうドラマで主役デビューですよ。すごいラッキーだった。
ーーそれで出した曲がいきなりミリオンセラーになって。それ見たことか、と思いませんでしたか。あの時オーディションで落とした奴らめ、みたいな(笑)。
中村:そこまでのリベンジ感はなかったけどね(笑)。でもこんなに人生が速いスピードで変わるのか、って。ちょっとびっくりしましたね。
ーーオーディションでダメだと判断された中村さんの歌が、実は世間に求められているものだった。
中村:まあそれは世の中によくある話かもしれないですね(笑)。最近になってその時のデモテープが出てきて。
ーーそれは出すしかないですね!
中村:いやいや(笑)。南らんぼうさんの曲を歌ってるんですけどね。聴いたけど、ちょっと照れ臭かった(笑)。
ーー人に歴史ありですね。ご自分のボーカル・スタイルの変化についてはどう捉えていますか。
中村:昔はもっと上の声も出て楽に歌ってたんだけど、今はちょっと絞り出す感じがあるよね。
ーー声の変化は少しあって、それに応じて歌い方も少し変えている感じは、この2枚ぐらいのシングルを聴いて思いました。
中村:そうだね。昔の歌なんかは「ふれあい」とか、拓郎さんに作ってもらった「いつか街で会ったなら」とか、小椋佳さんに作ってもらった「俺たちの旅」とか、楽にのびのび歌ってましたよね。
ーーどこかのインタビューで読みましたが、特別なボイス・トレーニングは受けていないんですよね。
中村:そうなんですよ。
ーー役者としての発声訓練と、歌手としてのボイス・トレーニングは違うものなんですか。
中村:一緒だと思いますよ。どこでどういう口の形をして、どこで響かせて、という基本は同じだと思うな。応用はできる。
ーーなるほど。そういう意味でも役者としての活動と歌手としての活動は両輪として成り立っている。
中村:そうですね。毎年ツアーをやっているということも含めて、ここずっとですね。若いころは、70年代からもう休みなしに役者やってましたけど、その合間を縫ってよくツアーをやってたなと思います。それが80年代ぐらいから、ドラマがワンクールの時代が来るんですよ。
ーーああ、3カ月で終わるようになりました。
中村:ええ。それからコンサート・ツアーは組みやすくなりましたね。
ーー70年代は長いドラマが多かったですね。
中村:1年やってるドラマとかざらだったんで。その合間にツアーをやってたんで、結構しんどかったですよ(笑)。ドラマの撮影やってる時に、ああ明日はコンサートだ、なんて。
ーーうまく気持ちは切り替えられるものなんですか。
中村:その場に行けばね。
ーーそこまでいくと、役者が本業なのか歌手が本業なのかわからなくなってきますね。
中村:いや、意識はやっぱり役者なんですけどね。でも40年以上CDを出して、コンサートも1500本に近づいてきて、そうなるともういっぱしの歌手だなと。
ーーいや、いっぱしどころか(笑)、こんなに長くコンスタントにやっている音楽家は、そうそういません。
中村:神様が決めたのかどうかわからないけど、有難いですよ。役者で人生を終わらせる可能性もあったわけだから。デビュー作で先生役の人が歌を出すって決まってなかったら? 「ふれあい」が売れてなかったら? もしかしたら学生時代に受けたオーディションに合格して歌手でデビューしていた可能性もあったかもしれない。そうしたら役者にはならなかったかもしれない。そう考えると人生って面白いですよね。「あの時もし……」みたいなね。
ーー中村さんといえば、デビュー当時の役柄の印象もあって、「気さくで気取らなくて率直で優しくて自然体のいい人」というようなイメージも世間一般にあるかと思います。
中村:うんうん。
ーーそれが邪魔だと思うことはありませんか。
中村:いや、それはないですね。俺、意外とあんまり何も考えずやってきたんですよ。人がどう見てるか、ってところで仕事はしてないんで。
ーー「理想の恋人」とか「理想の夫」とか「理想の父親」とか「理想の先生」とか、そういう「理想像」みたいなものばかり押しつけられるのは嫌だなあ、とか思いませんか。
中村:それはねえ、自業自得でね(笑)。自分のやってる仕事で結果としてそう思われるんで。それを狙ってやってたわけでもないけど、言ってみればすべて自分が蒔いた種なんでね。でもそんなの永久に言われるものでもないしね。
ーー確かにいつまでも「理想の恋人」ではいられないですよね。
中村:ずっと俺を見てきてくれた人は感じてくれているかもしれないけれど、俺は、本当に自然に、普通に生きてきたんですよ。
(取材・文=小野島大/写真=竹内洋平)
■リリース情報
『ならば風と行け』
発売:2016年9月14日(水)
価格:CD+DVD 税込:¥2,160
CD 税込:¥1,080
<収録内容>
M-1 ならば風と行け(東建コーポレーション イメージソング)
M-2 夜空に
M-3 ならば風と行け(カラオケ)
M-4 夜空に(カラオケ)
DVD付仕様盤には2015年10月12日(月・祝)、神奈川県民ホールで行われた中村雅俊コンサートツアー「COLOR OF HEART」より最新のLIVE映像を収録(「君がいてくれたから」、「雨のハイウェイ」、「100年の勇気」、「心の色」、「ふれあい」「恋人も濡れる街角」、「はじめての空」の全7曲を収録)
■ライブ情報
『中村雅俊コンサートツアー2016「L-O-V-E」』
10月1日(土) かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール(東京都) 開演16:00
【お問合せ】かつしかシンフォニーヒルズ 03-5670-2233
10月2日(日) 三島市民文化会館 大ホール(静岡県)※ 開演17:00
【お問合せ】三島市民文化会館 055-976-4455
10月10日(月) 笠懸野文化ホール・パル(群馬県)※ 開演16:00
【お問合せ】桐生音協 0277-53-3133
10月15日(土) 那須野が原ハーモニーホール 大ホール(栃木県)※ 開演16:00
【お問合せ】桐生音協 0277-53-3133
10月16日(日) 熊谷文化創造館 さくらめいと(埼玉県) 開演16:30
【お問合せ】さくらめいとチケットセンター 048-532-9090
10月22日(土) 福山市神辺文化会館 大ホール(広島県)※ 開演18:30
【お問合せ】福山市神辺文化会館 084-963-7300
10月23日(日) 三豊市文化会館 マリンウェーブ(香川県)※ 開演15:30
【お問合せ】三豊市文化会館マリンウェーブ 0875-56-5111
10月30日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール(愛知) 開演16:00
【お問合せ】サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
11月3日(木・祝)岸和田市立浪切ホール 大ホール(大阪)※ 開演16:00
【お問い合せ】岸和田市立浪切ホールチケットセンター 072-439-4915
11月5日(土) 日立市民会館(茨城県)※ 開演16:00
【お問合せ】桐生音協 0277-53-3133
11月12日(土)タウンホールとみか 大ホール(岐阜)※ 開演19:00
【お問い合せ】タウンホールとみか:0574-54-2112
11月20日(日) 津幡町文化会館 シグナス(石川県)※ 開演17:00
【お問合せ】津幡町文化会館 シグナス 076-288-8526
11月25日(金) なかまハーモニーホール 大ホール(福岡県)※ 開演18:30
【お問合せ】なかまハーモニーホール 093-245-8000
11月30日(水) 庄内町文化創造館 響ホール(山形県)※ 開演18:30
【お問合せ】庄内町文化創造館 響ホール 0234-45-1433
12月3日(土) 中野サンプラザホール(東京都) 開演17:00
【お問合せ】キョードー東京 0570-550-799
12月11日(日) 新大阪メルパルクホール(大阪府) 開演17:00
【お問合せ】サウンドクリエーター 06-6357-4400
12月24日(土) ハートピア春江(福井県)※ 開演19:00
【お問合せ】ハートピア春江 0776-51-8800
※の会場は“中村雅俊コンサートツアー2016「L-O-V-E」 Acoustic Unit”となりアコースティック編成。