乃木坂46の舞台公演が相次ぐ背景 アイドル×演劇は新たな成熟期へ

 乃木坂46は、結成当初から演劇への志向を明確に打ち出していた。ただし、一方で最も基本的な活動はコンスタントな楽曲リリースを軸にしたアイドルグループとしてのそれであり、その活動との連携や両立も求めざるを得ない。その前提の上での模索が、デビューの年から3年間続いた実験的な企画『16人のプリンシパル』シリーズだった。グループが知名度を獲得しながらキャリアを重ね、またメンバー個々のキャリアが追いついてきたことで、スリリングさと同時にいびつさもはらむ『プリンシパル』シリーズから、本格的に演劇公演へとようやく展開できたのが昨年だったと見ることもできるだろう。昨年と同じ二本の流れをくむ演劇公演が今年も企画されたことで、乃木坂46の演劇に対する姿勢はまた一段、成熟してきたといえる。

 もちろん、こうした演劇を経験することは、メンバーがグループを卒業して以降の活動を見据えるものでもある。アイドルグループ時からステップを重ねつつ演劇分野でキャリアを積む例は、乃木坂46に限らず少なくない。アイドルグループ以外にも枠を広げれば、若手シンガーとしてスタートし、その後ミュージカルで頭角をあらわした知念里奈やソニンらの系譜を想起することもできる。今月、帝国劇場で上演されているミュージカル『王家の紋章』に出演している宮澤佐江は、AKB48グループからそうした道を歩みつつある直近の例だろう。そのような流れを考えるとき、先ごろ発表された生田絵梨花の2017年版『ロミオ&ジュリエット』そして『レ・ミゼラブル』出演は、彼女および乃木坂46の未来にとって、さらなる展望の広がりを見せるものだ。これまでに上演が繰り返され、そして今後も再演されていくはずのこうした作品にあっては、まずはキャスティングに名を連ねること自体が大きな一歩となる。彼女が今後、これらの作品に再度キャスティングされてゆくとすれば、本格ミュージカルの方面にも道を拓くことになり、グループ在籍時と卒業後との活動をごく自然につなげていくものになるだろう。グループに在籍している現段階で、その一歩となる前例を作ったことがまずもって重要だ。

 すでに一昨年、若月が前田司郎作・演出『生きてるものはいないのか』出演を経験しているように、乃木坂46はグループ主導の企画ではない作品への出演の幅が広いのも特徴であり、生田のミュージカル方面の開拓もその大きな一手である。それはもちろん、演劇に重きをおく乃木坂46の、一貫した志向性のあらわれだろう。グループ全体が円熟期を迎え、個々の能力も充実していく中で、その強い志向の継続がどのように花開くのか。今年から来年にかけて発表されている公演で、その成果を確かめたい。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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