香月孝史『アイドル論考・整理整頓』 第十七回:『存在する理由 DOCUMENTARY of AKB48』
AKB48はメンバーの人生に何をもたらしたか? ドキュメンタリー最新作が描く“経験と糧”
「私たちのAKBが終わった」
序盤のあるシーンでブレイク期のAKB48を支えた卒業メンバーがそう述べたように、2016年のAKB48ドキュメンタリー『存在する理由 DOCUMENTARY of AKB48』は、高橋みなみのグループ卒業をひとつの区切りとして、世間的におなじみのメンバーが築いてきたおよそ10年の歴史「以後」をいかに見据えるかにフォーカスを当てている。この10年を振り返ることは、黎明期から巨大グループになるまでの組織の成長の歴史を紐解くものであると同時に、AKB48劇場や握手会に足を運んだ幼いファンたちが、やがてAKB48グループに加入し自らが実践者の立場になるという、継承のプロセスの確認でもある。
本作はその過程を一歩ずつ確かめるように、若手メンバーから中堅、ベテランメンバーへと遡りながら、それぞれの2016年現在の足場を確認していく。まず展開される向井地美音や込山榛香、大和田南那ら15期生が見せる希望や葛藤は、新進メンバーとしての期待を背負うゆえのものだ。そこから三銃士と呼ばれた14期生の岡田奈々、小嶋真子、西野未姫らの現在地を描き、さらにはかつて新進・中堅の立場を担ったのち異なるフェーズに入った宮崎美穂や、JKT48移籍によって在籍チームのみならず自身を取り巻く文化さえ一変した中に置かれた仲川遥香や近野莉菜らの活動にスポットを当ててゆくことで、10年を経たAKB48グループが、そこに集うメンバーの人生にもたらす道程や紆余曲折の幅広さを物語ってゆく。向井地や込山、大和田、あるいは序盤にAKB48の歴史と継承とを印象づける役割を担ったNGT48研究生の西村菜那子らもまた、そうした紆余曲折へと身を投じていくのだ。
このように見れば、本作は未来に向けたAKB48グループ内の継承の物語へと収斂していくかのように見える。ただし、このドキュメンタリーが同時に捉えていくのは、かつて在籍していたAKB48グループから離れ、大きく異なるステージで人生を歩む者たちの姿だ。AKB48とは別のジャンルや歩幅で芸能活動を展開させる者、飲食店を手がける者、その飲食店で共に従事する者、出産を経験し母親になった者。AKB48から離れ、芸能からも離れた元メンバーたちの姿もまた同じくこの10年の一側面として表現されていく。
このバランスは、監督を務める石原真の資質によるものだろう。石原は昨年公開の『アイドルの涙 DOCUMENTARY of SKE48』でも監督を務めているが、SKE48の歴史を紐解く同作では、SKE48結成から公開時点までグループのメインストリームに居続けたメンバーも、すでに48グループから離れた者たちも、物語を推進する上で同等の大きさで切り取っている。グループ内のパワーバランスや知名度以前に、各人の人生の尊さという点において等価に扱うこと。それは今年の『存在する理由~』にも共通する、石原がAKB48グループを受け止める際の基本的な視野なのだろう。こうした視野をもって映画作りがなされているのは、単に在籍時を懐かしむためでもなければ、過去の出来事の答え合わせをするためでもない。現在、AKB48の「内側」の物語に関わっている人々だけではなく、過去のある一時点でグループの物語に携わった人々にとって人生の道程の一部としてあったAKB48は何をもたらせているのか。そのような問いが本作のバランスには内包されている。