柴 那典のチャート一刀両断!
℃-uteが新作で打ち出した「大人の女性の魅力」 成熟するアイドルシーンはどこに向かう?
参考:2016年04月18日~2016年04月24日のCDシングル週間ランキング(2016年05月02日付)
今週のシングルランキングは、1位がジャニーズWEST、2位が℃-ute、3位がAOAという並び。中でもこの記事で焦点を当てたいのは、℃-uteのニューシングル『何故 人は争うんだろう?/Summer Wind/人生はSTEP!』だ。
今年で結成から11年目となりメンバー全員が成人を迎えた℃-uteにとって、新作は明らかな新機軸を示すとなる1枚だ。コンセプトは「大人の女性の格好よさ」。ここ数年、ハロー!プロジェクト関連のグループの中でも特に女性ファンが多いことで知られてきた℃-uteだけに、アイドルとしての可愛らしさよりも「歌って踊れる女性グループ」としてのクールでエレガントなイメージを打ち出す形となっている。歌唱力とダンス・パフォーマンスのクオリティの高さに定評がある彼女たちだからこそ、それが映える。
特にその新しい方向性が顕著に表れたのが「何故 人は争うんだろう?」。曲調はゴスペルだ。MVではニューヨークのブロードウェイを彷彿とさせるゴージャスなスパンコールのドレスを着た5人が、ピアノとホーン・セクションと分厚いコーラスをバックにスタンドマイクでソウルフルに歌い上げる。
作曲はアンジュルム「臥薪嘗胆」やこぶしファクトリー「ドスコイ!ケンキョにダイタン」を手掛けた新人作家、星部ショウ。ブラック・ミュージックを下敷きに今の時代のムードにあわせた楽曲を作り出す彼の才能とセンスはもっと評価を集めてしかるべきだろう。
また、コーラスは池末信の主宰するゴスペルグループ「THE SOULMATICS」のメンバーが担当。コーラスレコーディングの模様がYouTubeに公開されているが、ハーモニーの重ね方や歌声のニュアンスを調整しながら録音を進めていく様はとてもクリエイティブだ。
「人生はSTEP!」の曲調はエレクトロ・スウィング。40〜50年代のスウィング・ジャズにエレクトロやハウスの要素を融合させ、TB-303風のうねるベースラインで、レトロな感触を現代風のダンスポップにアップデートしている。フェイクの巧みな鈴木愛理、フラット気味なラインをついてくる岡井千聖、ハスキーな矢島舞美など、メンバーそれぞれも歌の表現力を見せる。
この手のジャンルの代表格であるフランスのCaravan Palaceあたりと聴き比べてみると、サウンドのレトロモダンなテイストを上手くJ-POPに換骨奪胎している感が伝わってくる。
つんく♂作曲の「Summer Wind」はメランコリックなエレクトロ・ポップ。夏をテーマにした曲でありながら、メロディの質感は解放感よりも抑制と悲しみを感じさせるものになっている。池田聡「濡れた髪のLonely」など、80年代にCMソング経由でヒットした男性シンガーソングライターを想起させるような世界観だ。