『ただひとつの太陽』リリースインタビュー
中田裕二が明かす“シンガー”の矜持「自分はロックシンガーでもシンガーソングライターでもない」
「生楽器と歌、それだけで成立する歌い手じゃないとダメだと思った」
ーー椿屋四重奏時代にインタビューさせていただいたとき、作曲の段階でかなりデモを作り込むとおっしゃっていましたけど、それは今も同じ?
中田:今もそうですね。デモはかなり作りこんでいます。自分の頭の中で、ハッキリと音像が浮かんでいるものに関しては特にそう。ただ、空気感を大事にするような曲に関しては、自分の脳内イメージだけで完成させてしまうと、小さくまとまってしまいがちなんですよ。そういうときには、プレーヤーの方々に自由に弾いてもらうことで、曲の中の人間度がどんどん濃くなっていくというか。楽器って、人が演奏するものじゃないですか。その人の人となりや、人生観が如実に出ますので。
ーーなるほど。「ただひとつの太陽」は、コード進行もシンプルで。「スタンダード曲なんじゃないか?」って思うくらいメロディもオーセンティックでした。この曲はどんなふうに生まれたのでしょうか。
中田:まずは「シンプルにしたい」っていうのがあって。例えば、スナックでおじさんが歌っているようなもの。ああいうところで歌ってる方は、歌を歌いたいだけじゃなく、聴いてる若いお姉さんやママに対して、「俺の人生を肯定してくれ!」と言いたい気持ちを歌に託しているというか。
ーーああ、確かに。そうじゃないと、わざわざ「マイ・ウェイ」とか歌わないですよね。
中田:そうそう、まさに「マイ・ウェイ」ですよ。「俺の歩んできたこの道を~」みたいな。そういう楽曲って、今は演歌以外だとあんまりない。これは由々しき事態だなと思って作りました。
ーー(笑)。きっと、誰が歌っても、その人の人生が滲み出てくるような、そういう余白を持った曲に仕上がったと思います。歌詞もすごくストレートですが、例えば「太陽」という言葉は何かの比喩だったりしますか。
中田:やっぱり、今の世の中は「情報過多」というか...。いろんな選択肢が溢れすぎてて、ネットを使えばすぐに答えが見つかる気になる。...でも結局、何かを見つけるのって難しいんですよね。誰も何も見つけられてないんですよね。たぶん、人間ってすごく単純で、情報だけどぼーんと渡されても全然解決しない。自分が今、依存している情報などを断ち切ったとき、自分のことをしっかり見てくれる人がいるかどうか。本当に信じられるものがすぐ近くにあるかどうか。もし、「これさえあれば生きている」っていうものがあるなら、本当にそれは大事にしなきゃいけないと思うんですよね。
ーーつまりそれが「太陽」で、人によってそれは家族だったり恋人だったり、友人や自分自身だったりもするわけですね。「夜をこえろ」の歌詞には、往年の歌謡曲的な美学があります。
中田:自分の頭の中で、ドラマの脚本を書くような。はっきりした筋書きがあるわけではないのですが、何となくボロボロの、救いようのないやさぐれた刑事がイメージとして浮かんでました。あんまり、極端に退廃的な世界観は好きじゃないですけど、例えば太宰治とか、ああいう男の焦燥感は好きかもしれません。歌謡曲自体、そういう世界観が多いんですよね。寺尾聰さんや南佳孝さん、沢田研二さんもそう。あまりはっきり口に出せない悲しみみたいなものを、表現する曲がとても多いんです。なんていうんだろう、「男の甘えん坊」的な? 「可愛く思われたくないから、強がる」みたいな。
ーーこの曲や、アコースティックな「ひかりのまち」(初回限定盤ボーナストラック)など、失った過去を取り戻そうともがいたり、あるいは振りほどきたくても振りほどけない葛藤を歌っているように思いました。
中田:やっぱり、人間が生きていく中で、得るものがたくさんあるぶん、失うものもたくさんある気がして。大切なものを失ったときに、どう折り合いをつけていくかっていうのが、すごく大事だと思うんです。落とし前をつけるっていうのかな。思い出が美化されていく感覚....どこか美しい思い出として処理しないと、やりきれない弱さがあると思うんですよ。きっとそこに、人間の根源的なテーマがあるような気がずっとしてて。だからそんな歌ばかりを歌っているのかも。
ーー過去に折り合いをつけることで、前に進めるということですよね。その、折り合いをつける過程でもがくさまを歌っているというか。
中田:そうですね。過去に過ぎ去っていくものに対して、ちゃんと「ありがとう」と言えるか。そこでまた一つ成長していくと思うんです。
ーー「ひかりのまち」は、震災直後にリリースしたこともあって、被災された方々へのメッセージも込められていたのかと。
中田:失ったものに折り合いをつけて、それでも進んでいかなければいけない人たちに、そっと寄り添えるような歌が歌えたらいいなと。上手く出来たのかどうかは、未だにわからないですけど。ただ、震災直後って電気が使えなくなったりしたじゃないですか。そのときに、電気を使わないと成立しない音楽に対して、どこか少し興ざめしてしまったところはあったんですよね。最終的には「役に立たないな」って思ってしまって。生楽器と歌、それだけあればいいのかなと思ったし、それだけで成立する歌い手じゃないとダメだなって思った。自分の存在意義に対して、色々と叩きのめされたし、考えさせられたときでもありました。
ーー「BUG」(初回限定盤ボーナストラック)は3年前の曲ですけど、“手を取り足を取る愉快犯の群れが常に見張る構図”という歌詞には、奇しくも昨今のSNSの炎上騒動に重なるところがあって興味深いです。
中田:「(ネットの騒動は)くだらないなあ」って、常に思ってますし、ああいうことに翻弄されてたら、生きてる直感とか直感とか、いろんなものを見失うんじゃないかなと。結局、顔のわからない、何者かわからない人の言葉って、言葉たり得るのか? とも思いますし。
ーー「ROUNDABOUT」(初回限定盤ボーナストラック)でも、“馴染みない肩書きの あなたはどなたで 勘違いはやめとけ 自尊心は泥舟”って歌っていますしね。
中田:「身の程」っていいますけど、SNSってそういうものを考えぬまま、自尊心や自我を増幅させる装置だと思いますね。ただ膨らませていくだけというか。アウトプットが対人間じゃないからこそ余計混乱するし。これからは、どれだけ情報に縛られないかが大事なのかなって思います。
ーー「イニシアチブ」や「モーション」(いずれも、初回限定盤ボーナストラック)は、大人の恋愛ゲームを歌っていて、まさしく寺尾聰、田島貴男的な、男臭い世界観ですよね。こういうライフスタイルは、中田さんの中でどのくらいリアリティがあるのでしょう?
中田:やはりミステリアスなものには惹かれますね。色々複雑なはずなんですよ、人間や恋愛模様って。絶対みんな、しんどい思いをしているし、変な事態に巻き込まれたりしながら生きていると思うし。そこを書くことがリアリティなんじゃないかと思っているんですよね。
ーーSNS上の情報交換に明け暮れていると、「生きざまからにじみ出るダンディズム」とか、「男臭い世界観」とか、そういう世界観を読み取る力も無くなっていきそうです。中田さんの方法論は、時代に抗っているなと思いますか。
中田:うーん....でも、そのうちみんなSNSにも飽きてくると思うんですよ。僕はInstagramをやっているんですけど、もうネタもないし(笑)。Facebookとかも「今日、こんなことありましたー」って毎日上げていたら、「なにしてるんだろ俺」って気分にみんななってくるんじゃないかな。そうなったとき、きっとアナログなものへ立ち返っていく気がするんですよね。居酒屋やスナック、喫茶店にレコード...。そっちの方が絶対、楽しいので。
ーー必ずしもテクノロジーの進化だけが、幸せではないと。
中田:やっぱり、人は実感とかやりがいがないと生きていけないし、実際に面と向かって「ありがとう」って言われることが生き甲斐であって、「いいね!」の数では決してないでしょう。そうなると、余計にベーシックでオーソドックスでスタンダードなものを作れるようにしておかないといけないなと思います。
ーー今回のシングルやツアーを経て、今後中田さんはどのようなベクトルを目指しますか。
中田:自分ではまだまだ無名だと思っているので、もっと名前や声を知ってほしいし、テレビにも出て歌いたい。音楽的には、今はネオ・ヴィンテージ・ソウルに感銘を受けているので、日本でいち早くと言えるくらいのスピードで自分が表現をし、次のステージにいきたいです。次のアルバムも、おそらくそういう方向性になるはず。前のアルバムは、AOR的だったんですけど、次はもっとディープに僕なりの日本人的ソウルミュージックを作ってみたいですね
(取材・文=黒田隆憲)
■リリース情報
『ただひとつの太陽』
発売:2016年4月13日(水)
価格:初回限定盤 ¥1,800(税別)
通常盤 ¥1,000(税別)
<収録曲>※初回限定盤
1.ただひとつの太陽
2.夜をこえろ
3.ひかりのまち(2011.3.25 配信限定シングル『ひかりのまち』収録)
4.BUG(2013.7.17 配信限定シングル『MIDNIGHT FLYER』収録)
5.イニシアチブ(2013.7.17 配信限定シングル『MIDNIGHT FLYER』収録)
6.モーション(2014.10.8 配信限定EP『薄紅』収録)
7.Steady(2014.10.8 配信限定EP『薄紅』収録)
8.ROUNDABOUT(2015.8.12 配信限定EP『STONEFLOWER』収録)
<収録曲>※通常盤
1.ただひとつの太陽
2.夜をこえろ
3.ただひとつの太陽(カラオケ)
4.夜をこえろ(カラオケ)
■ライブ情報
『TOUR 16 “LIBERTY”』(最終公演)
4月17日(日)東京 中野サンプラザホール
OPEN 16:00 START 17:00 全席指定 ¥6,300(前売/税込)
[問] SOGO TOKYO 03-3405-9999 (月-土 12:00-13:00/16:00-19:00)
http://www.sogotokyo.com
『“ARABAKI ROCK FEST. 16”』
2016年4月30日(土)
宮城 みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく
[問] GIP 022-222-9999<24時間自動音声案内>
http://arabaki.com/