アニメーションの劇伴にはどんな特徴がある? 『犬夜叉』など国内外の作品をもとに解説

 映画、テレビドラマ、アニメーション、アニメーション映画などの「劇が存在する映像作品」で流れる背景音楽、いわゆる「劇伴」は、映像作品が実写である場合とアニメーションである場合とで、劇伴の性質自体が異なってくるケースが多くみられる。前回の記事で、「実写とアニメーションの劇伴における音楽表現の違い」について、入り口の部分のみ言及したが(参考:あえて映像とは異なる音楽を流すことも? 『新世紀エヴァンゲリオン』などの「劇伴」手法を解説)、今回は、アニメーションの劇伴における音楽表現の特徴に焦点を当てて具体例と共に考察していきたい。

映像表現の違いが劇伴に与える影響

 実写作品では、役者の表情や動き一つが「表現」になるため、極論として音声が全く無くても観ることはできてしまう。しかし、アニメーションにおいては、劇伴作家にあえて説明的な音楽をつけるような指示が多い。これは効果音にもいえることで、やはりアニメーションになればなるほど、大げさな効果音を要求される。アニメーションは「映像そのものから得ることができる情報が実写に比べると少ない」ため、実写よりも劇伴や効果音の数が非常に多く必要となるのだ。これらの要因をふまえると、実写では登場人物の感情や心理状態を音楽によって説明する必要が少なく、「飛躍したイメージの音楽」や「感情移入を妨げるタイプの音楽」をつけることも比較的容易である一方、アニメーションでは「説明的な音楽」を求められる傾向にあるということがわかる。

映像表現を補佐する「説明的な音楽」

 では、アニメーション映像を補完するために使用される「説明的な音楽」とは、具体的にどのようなものだろうか。

 たとえば、人気アニメ『犬夜叉』における「朝」のシーンでは「時間帯を表す」劇伴が比較的頻繁に使われている。時間帯を表す音楽は状況を説明している音楽の一種であり、アニメーションだけでは時間帯が分かりにくい場面で劇伴がそれを説明する。厳密にいえば、「鳥のさえずり」は朝だけにきかれるものではないが、聴衆が朝という時間帯を感じやすい要素であるため、楽曲の中に「鳥の声を模した音」を使用することは作曲面でのアイディアとして有効である(実写では鳥のさえずりのSEのみで済ませるケースも多い)。同アニメの各種サントラ盤の中には、時間帯を表す劇伴として「村の一日」や「朝の風景」などといったタイトルの楽曲が収録されているが、これらの楽曲ではフルートをはじめとする木管楽器が登場する。木管楽器の音は古くから鳥の声と結びつけられており、クラシックの作曲家も木管楽器をメインとした上で鳥の名前をタイトルに入れた作品を数多く残しているのだ。

 説明的な音楽の他の例としては、「バトルシーン」についているバトル音楽などが挙げられる。「格闘」の音楽や「逃走」の音楽であったり、バトル音楽にも様々なタイプがある。「バトルシーン」における作曲面でのテクニックとしては、短い単位での繰り返しを多用したり、アップテンポにして緊迫感を出すなどといったごく基本的な手法から、ジャズのハーモナイズなどでもよく使用される「クラスター」と言われる2度音程ヴォイシングや「明確なピッチの無いパーカッション」などを使用してリズムやピッチを不協和に濁すことで、それぞれのバトルシーンにマッチする雰囲気をつくりだす等、そのアイディアには限りがない。

 繰り返すが、説明的な音楽は、前述した「アニメーションは映像そのものから得ることができる情報が実写に比べると少ない」という理由から、やはりアニメーションで多く要求されるケースが多い。

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