fhánaが語る、2016年のポップミュージック論「日本の市場を大事にしつつ、より広い世界に音楽を届けていく」

fhánaが語る結成の経緯とアニソン論

「このコンセプトが時代遅れになる前に、今しかないと思ってました」(佐藤純一)

――たしかにそうでしたよね。そして、今回8枚目のシングル『虹を編めたら』がリリースされます。爽やかなイントロから、ツインボーカルといっても過言でない掛け合い展開が魅力なポップチューンに仕上がってます。爽快感あるサウンドの秘密は吹奏楽ですか?

佐藤:アニメ『ハルチカ ~ハルタとチカは青春する~』は、吹奏楽がでてくる作品なので、吹奏楽の楽器をアレンジに入れようとは思っていました。キャラクターのハルタとチカのホルンとフルートがキーですね。あとツインボーカル風というか、2人のキャラのかけあいを意識してデュエットっぽいパートを考えてみました。

――テーマや制約があると逆にクリエイターとしては楽しめる?

佐藤:そのほうがつくりやすいですね。無制限だと、選択肢がありすぎて大変かなぁ。音楽だけじゃなくてデザインでもなんでもそうだと思うんですけど、コンセプトや道筋を見つけた時点で半分くらい完成しているんですよね。タイアップが決まっていると、最初の時点である程度範囲が限られているので、スタート起点が一周ぐらい早いところに立てている感じがあるんです。

――それはわかりやすいですね。あと、ストリングスの扱い方も絶妙でした。

佐藤:最初のデモをつくった時点で基本的なフレーズはシンセのストリングスで考えて入れてました。それを本物に差し替えてブラッシュアップして。今回はさわやかな曲でつくろうというのはもともと考えていたのですが、ハルチカの原作を読むと、さわやかなところだけではない一筋縄ではいかない作品なんですね。学園ものでミステリーでラブコメなんだけど普通のラブコメじゃなくて不思議なトライアングルなんですよ。あとそれぞれのキャラクターが重いものを抱えていたり。だからさわやかなだけじゃなくて少しほろ苦い要素もある、ミドルテンポだけど普通のミドルよりかは疾走感があるくらいの絶妙なバランスにしたいなと思っていました。

――楽曲タイトルに“虹”と入っているのは多様性を意識されてのメッセージですか?

佐藤:そうです。ハルチカっていろんな要素があって一筋縄ではいかない多様性ある作品なんですね。虹っていろんな色があって平行線上にずっと続いていくじゃないですか? ハルチカが一筋縄ではいかない作品であるように、人間ってそれぞれいろんなカラーを持っていると思うんですよ。いろんな性格があるし、もっとマクロな視点で見たらいろんな人種や文化があるし、多様な世界ですよね。それらが衝突するより交わっていけたらいいなと。虹って交わらないじゃないですか? なので、それを編むようにうまく交わってわかりあえたらいいなっていう理想を込めています。

――“虹を編む”って素敵な表現ですよね。

佐藤:だけどラスサビに「たとえそれは幻でも瞬間心重ねた」って出てくるんですけど、わかりあえた感じがしたとしても実はそれが勘違いなのかもしれない、だけどそうだとしても理想の状態を目指していこうみたいな姿勢を持つことが大切だと思っているんです。そんな思いをこの曲には込めています。今の世の中を見ているとテロとか難民の問題とか情勢不安によって保守的な方向に向かっているじゃないですか? 虹を編んでいこうよって思うんです。これまでの秩序が崩壊しつつあってみんなバラバラにやりだしていて。世の中が混乱状態に向かっていますよね? 混乱のあとは次の秩序を模索する段階に向かうと思うんですけど、紛争じゃなくて調和というか、わかりあえる状態に向かって欲しいなという想いがあります。もっと言えば、例えわかりあうことができなくても、それでも認め合うことが大切なんじゃないかって。

――お話を伺うことで楽曲への理解がより深く広く広がりました。ちなみに、ネットの普及で、アマチュアもプロもフラットになったと言われがちなクリエイティヴ・シーンですが、だからこそメジャーのチカラって大事だと思うんですよ。fhánaは、レーベルをランティスにすることで、リスナーとの入り口をアニメに集約することで、プロモーション戦略がとても明確ですよね? 明確でなければ広く深く届けることって難しい時代だと思うんです。その辺は意識的なんですか?

佐藤:結成のときからアニソンもやってみたいねとは話をしていました。

――ちなみに、結成のときはよりテクノロジー的というか、尖っているイメージがありましたよね。

佐藤:尖ってるんですけど、fhánaっていう名前はアニメ『CLANNAD』からきていたり、わりとこの3人が意気投合した要素がアニメやゲーム好きというところなんです。なので、わりと自然な流れだったのかもしれません。それもまた時代感ですよね。前のFLEETでは、変なこだわりが強すぎたんですよ。それこそポストロックっぽくてエレクトロニカみたいな、この枠のなかで生み出すサウンドがFLEET。そこから出るのは自分的に抵抗があったんですけど、fhánaに関してはある意味すごく自由につくっています。当時、僕はSUPERCARとかCORNELIUSとかが好きだったんです。それ以外にもゲーム音楽や、歌謡曲、音楽番組『ミュージックステーション』に出ている超メジャーな人の曲とかも吸収をしてたんですね。でも、自分の作品ではそれらの影響を出すことが恥ずかしいみたいな気持ちが昔はありました。でも、fhánaに関してはそういうのがなくって、自由にできているなと思っています。

Kevin:そのとき自分たちにとって一番身近な存在がインターネットで、だからインターネット上で活動するのも自然なことでしたね。

yuxuki:とはいえインターネットの中だけで活動しようとも考えていなかったし、逆にネットの外に出なくちゃいけないとも考えてなかったですね。

――インターネットという存在が、クリエイター的には昔でいったらライブハウスみたいなコミュニティ感覚のあるポジションでもあるのかな?

佐藤:それもあるし、僕たちにとってはネットとリアルは地続きなので。実際にメンバーともTwitterで知り合ってリアルで出会って活動しているし、その境目がないんですよね。

yuxuki:佐藤さんと最初に実際に会ったのも、ボーカロイドの即売会だったんです。その打ち上げのときって佐藤さんとwowakaさん(ヒトリエ)とハチくん(米津玄師)もいたんですよ。時代的なおもしろさだと思っています。

佐藤:fhánaを結成するとき、僕は早くやらなきゃって思っていました。このコンセプトが時代遅れになる前に。今しかないと思ってました。

――fhánaは、ポップミュージックとしてのクオリティが高いですよね。どこに向けて投げているのかなと気になったんですよ。

yuxuki:受け口を広くしたいと思っています。僕らアニメのタイアップで主題歌を多く担当させてもらっているので、基本的にはアニソンって見方をされるんですね。とはいえアニソンを聴かない人が聴いてもおかしくない、普通に好きになってもらえるはずという意味でも受け口を広くしたいなと。

佐藤:インターネット出身というところをコンセプトにしつつも、メジャー志向がみんな強くありますよね(笑)。

kevin:いまネットで活動しているクリエイターたちの間でも、メジャーに行きたいという流れがわりと多くなっているように思います。

――そういえば去年アトランタでもライブをやっていましたよね?

佐藤:市場を広げたいんですよ。日本だけだと限界がありますよね? それを突破したいです。

――そのためには、アニメというツールはとても有効的ですよね。

佐藤:かなり考えていますね。日本の市場も大事にしつつ、もっとこれから伸びるアジアとかにも広げたいなと。普通にアルバムを世界同時にリリースして、半分くらいが英語の曲になり、日本でもライブするし、アジアでも欧米でもライブをするし、アニソンも作るし、そうじゃない曲も作るしみたいな活動がしたいですね。

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