太田省一『ジャニーズとテレビ史』第十回:『VS嵐』『嵐にしやがれ』
嵐の魅力と現在地を示す、『VS嵐』と『嵐にしやがれ』の重要性
もちろん、メンバー個人の活躍の場もさらに広がっている。
リーダーの大野智は、昨年作品集を出版し、個展を開催するなどアートの分野での創作活動に意欲的だ。また今年4月からは日本テレビ系ドラマの主演を務めることも発表された。櫻井翔は、音楽番組やバラエティのMCをこなすかたわら、ニュースキャスターとして着実に経験を積んでいる。インタビュアーとしての達者さも特筆すべきだろう。相葉雅紀は、昨年『ようこそ、わが家へ』(フジテレビ系)で月9初主演を果たした。同時に近年は『相葉マナブ』(テレビ朝日系)をはじめ、バラエティへの進出も目立つ。二宮和也は、この年末年始も『赤めだか』(TBSテレビ系)、『坊ちゃん』(フジテレビ系)に相次いで主演するなど、俳優としての評価をさらに高めている。また『ニノさん』(日本テレビ系)での彼独特の視点が感じられるMCぶりも見逃せない。そして松本潤は、俳優としての活動はもちろんだが、『嵐 15年目の告白~LIVE&DOCUMENT』(NHK)などでも語られていたように、嵐のコンサートの構成・演出面でも大きな役割を担うようになっている。
そうした個々の活動の特色を踏まえながら、それぞれの素の表情やリアクションから生まれる魅力に迫ること。それがもうひとつの冠番組『嵐にしやがれ』(日本テレビ系)の昨年4月からのリニューアルの目的ということになるだろう。番組の内容も、そうした素の部分が見えやすい各メンバーによる体当たりロケ中心の構成になった。
例えば、「大野智の作ってみよう」は、大野の物づくりの才を生かし、究極のつまようじやマイ包丁などさまざまなものを自作する企画だ。そこで私たちは、作業に集中した瞬間の彼の魅力的な表情にしばしば出会うことができる。あるいは「ニッポン再発見!櫻井翔のお忍び旅行」は、無類の旅好きという櫻井がばれないように変装して日本全国各地を訪れるという企画だが、外国人観光客に日本の魅力をちゃんと伝えられるようになりたいという、いかにもニュースキャスターらしい真面目な動機が彼の口から語られる。同様に他のメンバーのロケ企画も、各々の活動やキャラクターを生かしたものになっている印象だ。
『嵐にしやがれ』が始まったのが2010年。SMAP、TOKIO、V6といった先輩ジャニーズグループがプライムタイムで冠番組を持つようになった1990年代後半は、ジャニーズアイドルが本格的バラエティの冠番組を持つことや芸人張りの体を張った企画に挑むことが、まだとても新鮮な時代だった。それに比べれば、嵐はそうしたアドバンテージの薄くなった時代から始めなければならなかった。
その点、今回のリニューアルで古立善之が企画・演出になったことは、重要なポイントだ。古立は、同じ日本テレビの『世界の果てまでイッテQ!』(『イッテQ』)の企画・演出を手掛け、成功させたディレクターである。「“何か”を利用して嵐の5人という人間を見せる番組にしたい」、そのために「意味のなさそうなことを一生懸命やってもらう」(『テレビドガッチ』2015年4月1日付インタビュー)と彼が語る『嵐にしやがれ』の新たなコンセプトは、『イッテQ』にそのまま重なるだろう。
またこの場合、『イッテQ』が、日曜夜8時というまさにファミリー向けの時間帯で成功を収めているバラエティだというのも忘れてはならないポイントだ。『イッテQ』は、宮川大輔の「世界で一番盛り上がるのは何祭り?」のように真剣にチャレンジするなかにもキャラクターとの相乗効果で笑いを生むその匙加減が絶妙な番組だ。それは、『VS嵐』で実証済みの、どの世代にもアピールする嵐というグループの魅力をベースにしながら、個々のキャラクターの魅力を際立たせるうえで絶好の手本になるだろう。
2009年『紅白』に初出場、2010年からはグループで5年連続司会を担当、そして2014年には初のトリを務めた嵐は、ひとつのサイクルを完成させ、グループとしての次のステップへの助走に入っているように見える。この年末年始の出演ラッシュは、その合図なのかもしれない。
■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『中居正広という生き方』、『社会は笑う・増補版』(以上、青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。