『WHITE ASH One Man Tour 2015“ Put A Smile On Your Face!”』
WHITE ASH、音楽的歩みをセットリストで示した夜ーー代官山UNITツアーファイナルレポート
WHITE ASHのワンマンツアー『WHITE ASH One Man Tour 2015“ Put A Smile On Your Face!”』の最終公演が、11月7日に代官山UNITにて開催された。本ツアーは、8月5日にリリースされた両A面シングル『Insight / Ledger』を提げて行われたもので、WHITE ASHは、北は北海道から南は福岡まで全国7カ所を周ってきた。最終公演が行われた代官山UNITは、WHITE ASHにとって初めての箱だったが、会場は満員で開始前からライブハウス特有の熱気に包まれていた。
オーディエンスの期待が高まる中、ライブは新曲の「Ledger」から幕を開けた。ブリティッシュロックの流れを汲む陰りのあるサウンドと、神秘的ともいえるハーモニーが印象的なこの曲で、一気に会場の雰囲気が変わるのがわかる。緊張感のあるスタートだ。そしてボーカル・のび太の「初めまして、WHITE ASHです! 最初から上げていきましょう!」とのMCを合図に「Ray」「Thunderous」「Kiddie」「Velocity」「Paranoia」と、ハードなナンバーを一気に放出する。疾走感がありながらもテクニカルに攻めるドラム・剛、重みのあるグルーヴで会場を揺らす紅一点のベース・彩、その人懐っこい性格とは裏腹にスリリングなリフで緊張感を高めるギターの山さん、そして色気のある中性的な歌声と卓越した表現力を持つボーカルののび太。ハードロックの激しさとキレのあるトリッキーな掛け合いが高いレベルで融合した、WHITE ASHの真骨頂ともいえるサウンドの猛攻に、フロアの熱気は早くも最高潮だ。
WHITE ASHは、00年代の洋楽ロックーー特にアークティック・モンキーズに大きな影響を受けたバンドだ。2006年にスタジオコーストで行われたアクモンの来日公演を観に行き、衝撃を受けた彼らは、それから9年後の2015年4月、同じ箱でワンマンライブ『WHITE ASH One Man Tour 2015 "DARK EXHIBITION”』を成功させる。彼らにとって、このライブはひとつの到達点だったといえよう。初期のWHITE ASHのサウンドは、まさにアクモンを強く意識した、つまりは70年代英国のハードロックを再構築したような音楽性で、その徹底した洋楽志向は邦楽ロックシーンにおいて独自の存在感を放った。その後、自らの音楽性をブラッシュアップしながらも、多様な音楽ジャンルを吸収した彼らは、3枚目となるアルバム『THE DARK BLACK GROOVE』を完成させ、前述の記念すべきワンマンライブを遂行したのだ。
そして、その次の一手となるのが、今回のシングル『Insight / Ledger』である。一曲目「Insight」は日本テレビ系アニメ『GATCHAMAN CROWDS insight』のオープニング主題歌となっており、“ヒーロー感”を感じさせる王道的なメロディラインが特徴的な一曲だ。一方で「Ledger」は、前作アルバムから引き継ぐダークな音像が印象的な仕上がりとなっている。そして、「The Phantom Pain」「Aurora」と、それぞれ異なる表情の楽曲へと繋がっていく。シングルでありながら物語性を感じさせる作品で、トータルプロデュース力に磨きがかかったことが伺える一枚だ。いくつかのタイアップに恵まれたのも、より幅広いマーケットに訴求する、バランス感覚に優れた音楽性を獲得したことの結果だろう。おそらく彼らは、『THE DARK BLACK GROOVE』を作り上げたことで、自らの音楽性を改めて俯瞰することができる視点を得たのだ。事実、この日のライブもまた、彼らが歩んできた道筋をひとつの物語として描くようなセットリストとなっていた。
のび太の「本日、ツアーファイナルでございます! いま、僕らの曲の中でもパンチの強い、ノリの良い曲を5曲ほどやりましたけれども、次のブロックは勢いだけじゃなくて、みんなそれぞれ自由に楽しんでもらいたいと思っている、僕らなりのロックな曲をお届けします」というMCの後は、『THE DARK BLACK GROOVE』より、「Just Give Me The Rock’N’Roll Music」を披露。BPMがぐっと引き下げられたこの曲は、その拍の中にうねるようなグルーヴがあり、のび太のフランクな英語詩が圧倒的な説得力で立ち上がる、WHITE ASHならではの激シブなロック・ナンバーだ。続く「Hopes Bright」は、モード学園のTVCM曲としても馴染みのある一曲で、これがまた実にカッコイイ。気が遠くなるほどメロディアスでありながらも、決して甘くはならない叙情的な旋律は見事というほかない。まるで引きずるような重いグルーヴの「The Phantom Pain」は、新シングルのカップリングでKONAMIのゲーム『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』のタイアップソングに起用された楽曲で、“とにかくみんなで踊れる”曲ばかりが目立ついまのロックシーンに一石を投じるかのような、野心的な作品だ。音と音の“間”に、オーディエンスはそれぞれの快感を見つけ、身を委ねるのである。
WHITE ASHが『THE DARK BLACK GROOVE』以降に追求していた、ダウンテンポの楽曲が続いた後は、今回のツアーから開始した「リクエスト・ブロック」へ。のび太によると、バンドとしてのキャリアを積み、総楽曲数が60曲余りとなったことから、自然とライブで披露する機会が減った曲もあるという。だからこそ、ファンからリクエストを募り、普段はあまり演奏しない曲にスポットを当てようというのが、この試みの趣旨だ。そして、のび太の「一足早いクリスマスプレゼントを」という言葉とともに「Xmas Present For My Sweetheart」が披露される。ダークな雰囲気から一転、優しく語りかけるような美しいバラード曲だが、しかしWHITE ASHらしさが失われるわけではない。この曲に溢れるメロウネスは、たとえば「Hopes Bright」を聴いていても感じられるもので、WHITE ASHの確固たる一面である。さらに「Faster」「Pretty Killer Tune」と、カップリング曲を中心としたセットが続く。ファンにとっては懐かしい楽曲でもあるが、「Pretty Killer Tune」はメンバーの山さんや彩もボーカルを務めることもあり、会場は大いに盛り上がった。実は全員が“歌える”メンバーであるということも、彼らの大きな武器だ。曲中でたびたび披露されるクールなハーモニーは、各メンバーの音楽的な素養の確かさを感じさせてくれるだけではなく、一瞬で音楽ファンを魅了する力がある。