宇野維正が『The Best Nightmare For Xmas』のサウンドを解説
WHITE ASHが邦ロックに示す“王道”とは? ギターリフが際立つ異色のクリスマスソングを聞く
12月10日にリリースされたWHITE ASHの『The Best Nightmare For Xmas』。彼らにとって初のDVD作品となる本作はインディーズ時代も含めたこれまでのMVをすべて収録した映像によるベスト盤と言うべき作品なのだが、そこに収められている新曲(DVD収録のMVだけでなく同梱されたCDにも音源を収録)「Xmas Party Rock Anthem」を初めて聴いた時は、思わず笑ってしまった。親の仇のようにクソ重いギターリフとリズムのカタマリを思いっきり叩き付けたかと思うと、「え?」という間が約2秒空いて、もう一度往復ビンタのように同じリフとリズムのカタマリを叩き付ける。で、いきなりグルーヴィーなダンスビートが刻まれていくのだ。ダンスビートと言っても、例の猫も杓子もな四つ打ちじゃないよ。もうほとんどブレイクビーツと言っていい、ヒップホップ的なそれ。思わず往年のQueenの「We Will Rock You」やAerosmithの「Walk This Way」を思い起こすような、もし自分がラッパーだったら思わずそこにラップをのせたくなる(ラッパーじゃないからのせないけど)、そんなヘヴィでシンプルなビート。この「Xmas Party Rock Anthem」は、曲のタイトルに「クリスマス」が入っている曲の歴史上で、少なくとも日本のロック/ポップ史においては間違いなく最もクリスマスっぽくない曲だろう。先ほど「思わず笑ってしまった」と書いたが、要はあまりにもカッコよすぎて笑ってしまったのだ。
2010年にインディーズデビュー、2013年にメジャー移籍したWHITE ASHは、「のび太」という人を食ったようなフロントマンの名前、写真などでメンバーの顔をはっきりと明かさないイメージ戦略、そして何よりもそのずば抜けたソングライティング力と邦ロックらしからぬ重心の低いサウンドで、日本のロックシーンにおいて異色の存在であり続けてきた。そんな彼らは、本人たちもその影響を公言していたように、デビュー当初は「Arctic Monkeysへの日本からの回答」的な文脈で紹介されることも多かった。しかし、そのArctic Monkeysがアメリカに渡ってクラシックロック的なヘヴィネスを手にしていったように(いや、もはやそこのシンクロはそれほど重要ではないけど)、彼らもまた独自の道を歩んできている。