浜田麻里は『LOUD PARK』でどう評価されたか さらなる高みを目指すボーカリストの現在地
メタリックな「Fantasia」に続いては、最新アルバム『Legenda』からのファストチューン「Momentalia」。もの悲しげなピアノのフレーズに続いて激しいビートが繰り出されると、観客もハンドクラップで応える。そして浜田の「最後までよろしくお願いします!」という挨拶からアグレッシヴなバンド演奏へとなだれ込み、盛り上がりはさらに加速。曲間では増崎孝司のギターと増田隆宣のキーボードによるソロバトルも展開されるという、実際の楽曲構成がその場で再現された。ファストチューン2連発で会場の熱気が高まったところで、3曲目には初期の代表曲「Blue Revolution」が早くも登場。前方からはさらなる大歓声が沸き起こり、サビでは曲に合わせて拳を高く上げる場面も見受けられた。
3曲で会場の空気を完全に掌握した浜田。ハードな楽曲で自身の存在感を存分にアピールした後は、アカペラで「Nostalgia」をしっとりと聴かせる。彼女の歌に集中するかのようにシーンと静まり返った場内に、時に力強く、そして時にやさしく語りかけるように響く彼女の歌声に対し、客席からは惜しみない拍手が送られた。そこからシンフォニックなサウンドが場内を包み込むように流れ始めると、ステージ上手には赤いジャンプスーツを着用した高崎晃(LOUDNESS)の姿が。80年代半ばを思わせるファッションの高崎に気付いたメタルファンからはさらなる歓声が上がり、バンドはそのまま高崎を含む編成で「Stay Gold」を演奏。ミディアムテンポのヘヴィなサウンドをバックに、浜田は自身の声を自由自在に操り楽曲を彩っていく。また彼女の歌に対をなすようにコーラスを響かせるERIのボーカルワークも絶品で、曲が後半に進むにつれてその凄みはさらに増していく。そしてクライマックスではこれでもかというほどのハイトーンを会場に轟かせると、会場中から歓喜に満ちた歓声が沸き起こった。
続く「Historia」ではオープニングから高崎と増崎がツインリードを披露し、観客を喜ばせる。この曲で再びテンポアップすると、ライブの盛り上がりもさらに加速。ここまで激しいボーカルを聴かせながらも、浜田の声からは一切疲れが感じられない。ところどころで飛び出すハイトーンはもはや楽器のひとつと化し、この楽曲を、このライブを劇的なものへと進化させていった。さらにJOEのドラムソロに導かれるように始まったのは、1983年の2ndアルバム『ROMANTIC NIGHT~炎の誓い』のオープニングナンバー「Don't Change Your Mind」。原曲では今は亡き樋口がドラムを叩いていたが、現在ではこの曲を44MAGNUMのJOEがプレイし、さらにこの日は樋口の盟友・高崎がギターを弾くという感慨深さを与えた。激しいビートに合わせて観客が拳を振り上げるさまを目にし、曲のラストで浜田が思わず笑顔を浮かべてガッツポーズを取る一幕もあった。
この日のラストナンバーは前々作『Aestetica』からの疾走ナンバー「Somebody's Calling」。この曲でも高崎は彼にしかできない唯一無二のギタープレイで、圧倒的な浜田のボーカルに対抗する。2人は時に肩を並べ、時に向かい合いながら今回の共演を堪能しているようだ。最後まで一糸乱れぬ完璧なボーカルワークを聴かせた浜田に対し、筆者はライブ中思わずため息を漏らすことが何度かあったが、それは私だけではなかったようだ。実際、自分の周りにいた、恐らく彼女のライブを初めて観るであろう20代の男女は真剣な表情で浜田の歌に聴き入り、圧巻のハイトーンを響きわたらせるたびに「すげえ……はぁ……」とため息まじりでつぶやいていたのが印象に残っている。こうして約40分にわたる浜田の『LOUD PARK』初ライブは無事終了。気付けば開始時より大勢の観客がアリーナに集まっており、彼ら彼女らは浜田とバンドメンバー、そして高崎に対して熱い声援と惜しみない拍手を届けていた。
開始前こそアウェイになるのでは?なんてことを思い浮かべていたが、いざ終わってみれば「2日目のベストアクト」などの声が多く聞かれたこの日のライブ。浜田は来年初頭に25作目となるオリジナルアルバムのリリースを控えている。デビュー30周年を機に再評価の気運高まる彼女が『SUMMER SONIC』や『LOUD PARK』といった大型フェスに通じて表現してきたものの最新形が、次の新作で楽しめるはず。アーティスト、ボーカリストとしてさらなる高みを目指す彼女の次の“ミッション”に、ぜひ注目してほしい。
(文=西廣智一)
■浜田麻里『LOUD PARK 15』セットリスト
M1. Fantasia
M2. Momentalia
M3. Blue Revolution
M4. Nostalgia
M5. Stay Gold
M6. Historia
M7. Don't Change Your Mind
M8. Somebody's Calling