ニューアルバム『おまけのいちにち(闘いの日々)』インタビュー

結成から33年ーー筋肉少女帯・大槻ケンヂが語る“異能のヴォーカル”の矜持と、バンドの現在地

「やっぱりステージに立ってる時がね、いちばん生きてる充実感があるんです」

 

ーーニューアルバム『おまけのいちにち(闘いの日々)』を作るにあたって、事前のコンセプトや、「こんなアルバムにしたい」というビジョンはありました?

大槻:前作の『THE SHOW MUST GO ON』というアルバムは……再結成以降の筋肉少女帯というのは、「ゴージャス・エンタテインメント・ハードロック」っていう感じがあったと思うんですね。で、『THE SHOW MUST GO ON』は、それをつきつめられるところまでつきつめたアルバムで、僕はぶっちゃけ、ちょっともはや「アメリカンだよなぁ。昔で言う産業ロックの香りすらするな」と思ったんです。それでもいいんだけど、でも逆に、今回はちょっとアングラでナゴムな感じを出そうと思って、選曲会議の時……橘高くんがテキパキ進めるんですよ。「これだけ曲が集まったんだけど、大槻、どの曲にする?」って、それは僕の分担だから。で、「あ、この曲は歌詞が浮かぶ」とか言って、どんどん選んでいったんですけど。今回、内田(雄一郎/b)くんの曲が3曲あるんです。これは、最近めずらしいことで。内田くんの曲は独創性が強くて、「ゴージャス・エンタテインメント・ハードロック」では決してないんですよ。逆に今回は内田くんの曲を3曲入れて、これまでの再結成以降と違う方向に行こう、というのが僕の中にあって、そういう選曲にしたんです。

ーーあの、再始動された時に大槻さん、その動機として「ファンの青春を終わらせてはいけないから」とおっしゃっていたんですね。今はその活動の動機って、どのようなものになっていますか?

大槻:今の僕の活動の動機は、ライブにおけるリア充感ですね。本当にそう。ライブにおけるリアルな「生きている」という充実感、それがほしいんです。プロレスラーの藤原喜明さんも大仁田厚さんも、同様のことを言ってましたね。「なんでこの歳になってプロレスやってるか? やっぱり『生きてる』って感じがするじゃない!」って大仁田さんも週刊プロレスで言ってましたけども、まったくそうなんですよ。僕、ほかにも弾き語りやったり、特撮ってバンドをやったり、『のほほん学校』ってイベントをやったりもしてるんですけど、緊張しつつ人前に出て……お客さんが入る日入らない日、ウケる日ウケない日ありながら、やっぱりステージに立ってる時がね、いちばん自分が生きてる充実感があるんです。というか、それ以外の時、あんまり生きてる感じがないんですよね。

 で、筋肉少女帯というバンドは……バンドというのは魔法が使えるもので、筋肉少女帯でないと得られない……もちろん特撮でもお客さんは盛り上がるんですけど、筋肉少女帯特有の場の盛り上がりっていうのがあるんですよ、やっぱり。それはねえ、どうやっても筋肉少女帯でしか出せないということが、もう長いことやってきて、わかってるので。特撮には特撮にしか出せない盛り上がりもある。その筋肉少女帯の魔法が使われている状態のステージのリア充感を得られるならば……どんなことでも、人が集まってやいのやいの言いながら作業してひとつのものを作れば、そこには当然葛藤があり、人付き合いがあり、めんどくさいことは山ほどありますけれども、それを超えてでも、筋肉少女帯におけるライブの高揚感という魔法がほしいんですよ。僕の場合はね。メンバーはまた違うと思うけれど。

「今年の『WORLD HAPINESS』でいちばん盛り上がったのは筋肉少女帯の“ライディーン”(笑)」

大槻:この夏、高橋幸宏さんが中心となるフェス『WORLD HAPINESS』に出たんですけど……ほかは、カジ(ヒデキ)くんとかスチャダラパー、野宮真貴さん、っていう渋谷系なラインナップで、そこになぜか筋肉少女帯が呼ばれて。かつて僕は、内田雄一郎くんとケラさんと3人で、YMOの“ライディーン”に勝手に詞を載せて、あまつさえそれをレコード化する、という信じられないことをしていて(笑)。若気の至りにも程がある。

ーー空手バカボンですね。

大槻:はい。で、「幸宏さんのイベントに呼ばれたっていうことは、その曲をやれっていうフリかな?」と思って(笑)。「いや、ステージで幸宏さんにぶん殴られたらどうしよう? でも、幸宏さんにステージでぶん殴られるってそれ最高においしいな(笑)」とかいろいろ葛藤があったんですけど、リハーサルの音源をフェスの事務局と幸宏さんの事務所に送って、許可をいただいて、それでライブでやったんですよ。そしたら異様な盛り上がりで。ぶっちゃけ言ってしまいますけど、僕、あの日いちばん盛り上がったと思う(笑)、筋肉少女帯の“ライディーン”が。ほんとにお客さんが楽しんでくれて。終わったら幸宏さんが目の前にいて、「はっ!」と思って頭を下げて両手を出して、握手をして……幸宏さん、さすがに苦笑いでしたけど(笑)、楽しんでくださったみたいで。

 メンバーに「“ライディーン”どうかな?」って言ったら、「おもしろいじゃない!」ってみんなのってくれてね。「じゃあもうバリバリのヘヴィメタルでやろう」って……サポートの長谷川(浩二/ds)さんもツーバスでドコドコ踏んで、橘高くんも弾きまくって、サポートのエディ(三柴理/key)は手弾きであのリフを弾いて、「それ、テクノじゃないだろう」っていう(笑)。でもそれが、とてつもなくうまいヘヴィメタル版“ライディーン”になってね、「なるほどなあ」と。こういう卓越した天才的演奏力と、僕の考える“ライディーン”に詞を付けて歌うみたいな、ちょっとどうかしてる異能の発想が合致した時に、そこに魔法が生まれてお客さんが盛り上がる、筋肉少女帯ってそういうことなんだろうなあ、と。『WORLD HAPINESS』の“ライディーン”で、筋肉少女帯というバンドが、改めて見えた気がしますね。まさか“ライディーン”でそれが見えるとは思いませんでしたけれども(笑)。

ーー昔、大槻さんが“とん平のヘイ・ユウ・ブルース”(左とん平)をやろうと提案したら、橘高さんが「俺はできない!」と拒否して、最終的に数年後に大槻さんのソロに入った、ということがありましたよね。「大槻のソロならギター弾いてもいいよ」っていう。

大槻:(笑)うんうん、ありましたね。

ーーでも今なら橘高さんも「いいんじゃない?」っておもしろがるんじゃないかなと思って、今のお話をきいていて。

大槻:ああ、それで言うとね、この『おまけのいちにち(戦いの日々)』っていうアルバムで重要だなと思うのは……「大都会のテーマ」もそうだし、「夕焼け原風景」もそうだけど、ちょっとブルージーな曲なんですよ。昔「ヘイ・ユー・ブルース」を絶対弾かないと言った橘高くんが、このブルージーなギターを弾いたというのがね、筋少の歴史において画期的なことじゃないかな、と今回僕は思ってるんです。彼なりの着地点があるんでしょうけどね。ブルージーだけどブルースではない、これはちゃんとニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタルの流れに沿ってやってるんだ、っていうのがあるんでしょう、彼の中の落とし所として。

ーーだから、昔はきっと大槻さんも橘高さんも「俺のバンドだ」と思っていたのが、今は「俺のバンドだけど俺のバンドじゃない」と思っているんじゃないかなあと。

大槻:ああ、若かったからね。おいちゃん(本城聡章/g)も内田君もね。確かに昔は、「俺のバンドだ」っていう大槻ケンヂと、「大槻のバンドじゃない」っていうメンバーとの軋轢があったかもしれませんね。まあ、若い時ってそういうもんでしょう、誰もが。今はメンバーそれぞれバンドを持っていたりするので、そこはなんか……日本人的なよさが出てきたというか、お互いに譲りあう心が出てきましたね。

 おいちゃん(本城聡章/g)も……このアルバムの 「LIVE HOUSE」って曲なんて、彼が10代の時に作った曲で。こんなストレートでピュアな曲、50歳では作れないですよ。当時彼は確かエッグレイヤーっていうバンドをやっていて、彼がヴォーカルで歌ってたんじゃないかな?……「ギターケースに今夜は君を詰め込んで Oh Baby Oh Baby」って歌詞の曲で、当時から僕ら、茶化してたの。「いくらなんでもベタだろう」「楽器ケースに女を入れるって、それは横溝正史の『蝶々殺人事件』ですか」って(笑)。

 でも、あれ、ケラさんが50歳になった時かな、初期有頂天が新宿ロフトでライブやって、おいちゃんがギター弾いてこの曲を歌ってて。それを聴いて「いい曲だなあ!」って心の底から思ってね。そのピュアさとかを感じてね。で、今回おいちゃんに「あの曲やろうよ、俺らが50になった今だからこそ、これをやるのが生きるんだよ!」って言ったら、「ええっ? 本当に?」って。

関連記事