LITTLE、細川貴英 特別対談
LITTLE+細川貴英が語り合う、韻の面白さと使い方「韻はフェティシズムの世界 それをいかにポップスにしていくか」
「ここ数年は、聞き手に韻を踏んでいることを気付かせないことに注力している」(LITTLE)
細川:僕は良質な韻の定義として、「共通している母音の文字数が多い」「同じ母音で踏み通す回数が多い」「母音のみならず子音も共通になっている」「固有名詞など汎用性のない言葉を含んでいる」「韻を構成する品詞や言語が多様である」の5つを挙げているのですが、LITTLEさんのラップはまさにそれを体現していて、だからこそオリジナリティがあるし、すごいと思います。
LITTLE:韻はクリケットみたいなもので、早い者勝ちだから、見つけたらとにかく誰よりも先に入れ込んでいこうという姿勢でやっていました。90年代くらいはラッパー同士で「この韻はすでに誰かが踏んでいるよね」みたいな会話があるほど、韻のオリジナリティも追求されていたと思います。だけど一方で、ダジャレみたいだという意見も当時からあった。まぁ、ダジャレと言われれば、そうとも言える(笑)。
細川:良質な韻の定義の「母音のみならず子音も共通になっている」を満たすと、たしかに限りなくダジャレに近いラップになります。でも、それをダジャレっぽくなく聞こえさせるためのテクニックもあって、たとえば小節をまたいだり、ふたつ以上の単語で踏むと、韻らしさが際立ちますよね。このアルバムの「Beach Sun Girl」でいうと、「イヒヒにやけてる」と「日に焼けてる」が韻を踏んでいますが、「イヒヒ」で1つの単語なのに、最初の「イヒ」は小節をまたいでいて、ラップでしか表現できないような語法になっています。そこが音楽的にも気持ちいいんですよ。
LITTLE:ありがとう、本の中でもすごく褒めてくれていたよね。でも俺、実はそこまで深く考えて作っているわけじゃなくて、感覚的にやっているというか(笑)。
細川:そうなんですか! 感覚でこれをやっているなんて、むしろ驚きです。
LITTLE:だって、もうずっと歌詞を書いているからね。別にルールを理解していなくても、自然と出てくるというか。「もっとこうした方がいいよ」っていう意見は、KREVAやROCK-Teeにもたくさん言われたし、それで裏拍から入ったほうがかっこいいとか、8小節をまたぐ時にこうすると気持ちいいとか、だんだん身に付いていった感じです。以前、雑誌『Fine』で連載していた「RHYMESTERのラップ講座」というのがあって、それでも「8小節あたりに気をつけろ」みたいなことが書いてあったし(笑)。でも、細川さんの本を読んで、「あ、俺はこうやって作っていたんだ!」っていう気持ちにはなりました。
細川:それは嬉しいですね。でも、僕はてっきりLITTLEさんもラップを理論的に考えて構築していると思っていたので、すごく意外です。これほど隙のないラップを感覚で作っていたなんて……。
LITTLE: GAKU—MCさんなんかは、ブレスの位置までシステマティックに計算していたりするので、作り方はひとそれぞれだとは思いますけどね。でも、自分の周りのラッパーは、割とラフに歌いながら決めていく感じが多いかな。個人的にかっこいいと思うのは、家で作り込んできたラップをブースで表現するときに、感覚でざくざく削っていけるタイプ。2回目のテイクを聴いたら、「え、そこを削っちゃうの?」ってくらい大胆に削ぎ落として、しかもそれが抜群にかっこよくなったりするんですよ。“てにをは”はもちろん、韻まで平気で削るひともいる。その“削り方”がかっこいいラッパーは、憧れますね。
細川:韻を削るのはかなりの勇気が必要ですね。
LITTLE:本当にそう。だから、あえて最近は、あまり韻には重きを置かないようにしている。もう本当にジジイの趣味だと思ってやっているぐらい(笑)。もともとがこういう作り方をしているから、韻は踏むんだけど、でもそこには固執しないというか。やっぱりどう聴こえるかというのも重要だし、たとえば「夢のせい」みたいなメッセージ性の強い歌を歌う時に、韻をがっちり踏んでいると、そっちに耳がいっちゃって、その世界観に入りにくい面もある。その両立が難しいんですよ。
細川:なるほど。でも、「夢のせい」は本当に、メッセージ性と韻が完全に両立している曲だと思います。あれぐらいメッセージがある中で、実はさりげなく韻が踏まれているのがすごくかっこいいです。
LITTLE:ここ数年は、聞き手に韻を踏んでいることを気付かせないことに注力しているからね。もう本当に好きな人だけが気付いてくれれば、それで良い。俺が好きで踏んでいるだけだから、わざわざアクセントにしようとは思っていない。来年の夏ぐらいに聴き直したときに、気付いてくれれば良いかなって(笑)。