市川哲史の「すべての音楽はリスナーのもの」第19回
BABYMETALが“元洋楽少年”を熱狂させる理由【国内篇】 市川哲史が人気曲から紐解く
新年早々の1月10日、ベビメタのさいたまスーパーアリーナ公演『《LEGEND“2015”~新春キツネ祭り~》』を観た。そして私が最も惹かれたのは、なぜか開演前の時間帯だった。
まず場内に流れるBGMが、当たり前だがひたすらメタルだ。私の音楽評論家としての範疇にメタルはいないのだけれど、それでもメタリカ、アンスラックス、ジューダス・プリースト、パンテラ、アイアン・メイデン、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン程度ならさすがにわかる。
すると、革ジャンの下に古今東西のヘヴィメタTシャツを着た輩が嫌でも目立つことに気づく。
でもって最終的には、2万人も集まってるのになぜ、おっさん客ばかりが大量に群れ集っているのか思い知らされた次第だ。
「ヘヴィメタルっておじさんが好きな音楽なんですよねー」教え子の女子大生(20歳)が爽やかに教えてくれた。おいおい。
付け加えるなら30代後半以上のメタルおじさんは、<アイドルに免疫のない元洋楽少年>なのだ。2010年代以降のアイドルが一糸乱れず高速かつ複雑なダンスを踊ることを、これまで知る由もなかったのだ。そんなうぶなロック中年が初めて遭遇したアイドルが、自分が若かりし頃熱狂したヘヴィメタをハイスパートに唄い踊る可憐なベビメタだったら、そりゃもう虜でしょう。メタルとダンスでWトランス状態だもの。
同じくももクロも「おっさん」と「ロック好き」にかなりの訴求力を誇るけども、「メタル限定」とクローズな分だけ、おっさんたちのベビメタ愛はより深いわけだ。
そして<おっさん>に<ヘヴィメタ>に<海外>と、これだけ局所的に熱烈支持されてるにもかかわらず、従来のドルヲタや肝心の一般ユーザーへの浸透がまだまだ待たれるとは、BABYMETALはつくづく特殊なアイドルなのである。
しかしそれだけに、彼女たちのこれからを実は勝手に危惧するおっさんがいる。
振付担当のMIKIKOMETAL女史によれば、ベビメタのキレっキレダンスはやはり「あの年齢だからできる」らしい。特に今春中学を卒業したばかりのユイメタ&モアメタは、未だに「加減」を知らぬまま爆発的に激しく踊り続けている。度々見せるジャンプの際も「そこまで跳ねますか」と感心するほど、高く跳躍してるし。「体重が重いとできないと思う。いまのそんなに贅肉もついていない身体だからこそできてるんです」。ごもっとも。
安藤美姫や浅田真央が大人の身体になるにつれて、四回転やトリプルアクセルの<跳ぶ跳ぶ詐欺>常習犯になったのと同じ理屈だよなぁ。二人共まだ中学生体型を保ってるからいいようなものの、身体の成長はやがて避けられまい。いやキレが鈍る以前に、もしユイモアの身長がスーメタと変わらなくなったりしようもんなら、あの美しきベビメタ・シンメトリーも崩壊してしまう。そもそもロンドン公演の時点でユイモアが見せる表情が既に、時折大人っぽくなってたりする。ああ。
もしかしたらBABYMETALの活動期間は、生物学的に考えればもはやあまり残されていないのかもしれない。彼女たちがBABYMETALでいられる時間は、残り僅かなのだ! 的なキャラクター性も含め、茶番は《ベビメタ》という一大ロック・エンタテインメントへと昇華しつつある。前出の女子大生はこうも指摘した。
「でもベビメタの子たち、想像してたのと全然違うアイドルになっちゃったと思ってますよきっと」
だから人生、面白いのだ。
■市川哲史(音楽評論家)
1961年岡山生まれ。大学在学中より現在まで「ロッキング・オン」「ロッキング・オンJAPAN」「音楽と人」「オリコンスタイル」「日経エンタテインメント」などの雑誌を主戦場に文筆活動を展開。最新刊は『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』(シンコーミュージック刊)