西廣智一『aiko 15th Anniversary Tour 「POPS」「ROCKS」』レビュー
「POP」と「ROCK」の15周年ツアーDVDが示す、ライブアーティスト・aikoの本質
そんな彼女がデビュー15周年の記念すべきタイミングに、結果として半年近くをかけて行うこととなった4本のライブツアー。会場の規模も違えばセットリストも異なる。しかもアリーナ公演ではaiko史上初となる円形ステージを用いており、ファンならばどれも観ておきたいと思ったことだろう。さらに4本のツアーは1本1本別々に行うのではなく、「今日はA、3日後はB、4日後はCで、その2日後にまたB」というように同時進行されるのだから、これはもう体力との勝負とも言える。実際、ツアー終盤にはaikoが体調を崩したことにより、一部公演が延期となり、10月で終わるはずだったアニバーサリーツアーは12月にファイナルを迎えることになったのだから。
さて、こんな能書きを読んでaikoのライブについてわかった気になる前に、まずはYouTubeに公開されている今作のトレーラー映像や「Loveletter」のライブ映像を観てほしい。これを観てしまったら、絶対に物足りなさを感じるはずだから……そんな人たちにうってつけのアイテムが、今回の映像作品集だと言える。ツアー4本、曲数にしたら74曲。もちろん各公演でかぶる楽曲は登場するのだが、会場の大きさやセットリストの配置によってこうも聞こえ方が変わるのか、そして観客の熱量によって曲もどんどん進化していくのだということがおわかりいただけるはずだ。
現在のaikoのライブツアーにおいて、基本スタイルとなっているのが『aiko 15th Anniversary Tour 「POPS」』に収録されている「Love Like Pop」と題されたツアーだ。新作を携えたツアーはこのタイトルで全国のホールやアリーナ会場を回ることになる。DISC 1に収められた『Love Like Pop vol.16 ~15th Anniversary~』は今回の4ツアーのうち、もっともスタンダードな形となるものだ。ほかの3本のツアータイトルにそれぞれクスッとしてしまうサブタイトルが加えられているが、こちらはシンプルに「15th Anniversary」と銘打つのみ。セットリストもデビュー曲「あした」から始まり、そのままブレイクのきっかけとなった「花火」へと続き、ヒットシングルやライブの定番曲、隠れた名曲、そしてインディーズ時代を含むメドレーなどサービス精神旺盛な内容となっている。中にはピアノ1本による弾き語りも含まれており、これだけ観てもエンタテインメントとしての水準の高さが伺える。
このスケール感をさらに拡大した究極のステージが、DISC 2に収められたアリーナツアー『Love Like Pop vol.16.5 「15周年、本当にありがとうございまし」』だ。aiko史上初となる360度円形ステージというほかの3本と異なるステージ構成なのも驚きだが、とにかくこのライブはオープニングの演出から圧巻の一言。しかし日本武道館や大阪城ホールという約1万人規模の会場ならではのスケール感にも関わらず、観客の1人ひとりに歌を届けようとするaikoの姿勢はまったくブレていないのだ。実はここに収録された武道館公演の1週間前に彼女は喉の不調を訴え、『Love Like Pop vol.16 ~15th Anniversary~』のNHKホール公演を急遽延期している(延期された結果、全ツアーのファイナル公演となってしまったライブがDISC 1に収録されているのだ)。実際この日のライブは僕も会場で観ているのだが、決してパーフェクトとは言えないかもしれない体調なのにファンに歌を届けたい、思いを伝えたいという気持ちが強く表れ、観客も彼女の思いに応えようと熱い声援を送り続ける。その相乗効果から生まれた奇跡のようなライブが、ここには収められているのだ。aikoのライブはどれもエモーショナルなものばかりで「これが一番」なんてことは当然決められないのだが、15周年という記念すべき1年にこれだけのライブが立て続けに行われていたという事実を知るためだけにも、これらの公演の映像化は本当にありがたいという気持ちでいっぱいだ。