SKE48のドキュメンタリーが映す「涙」の意味とは? 現役メンバーと卒業メンバーが描いた物語
かつての主要メンバーの中には、出演に応じることのなかった者もいるだろう。また、ある元メンバーについては、卒業に強く焦点を当て、彼女が活動継続を選ばなかったということの方を印象づける扱いをしてもいる。しかし、それらを含めて本作全体が強く滲ませているのは、SKE48として活動を継続している者も、SKE48を離れて芸能活動をする者も、芸能活動から離れ「一般」の人として生きる者も、等しく一人前の道程を歩んでいることの尊さである。ファンが「もっと活躍できたはずの元メンバー」の姿を未練がましく追い求めてしまうのは道理である。しかしまた、そもそも芸能を志すことそれ自体、どれほど未来を嘱望されようともきわめてギャンブル性の高い道なのだ。若い時期の試行錯誤の一環でもあり、人生を賭ける一大ギャンブルでもあるアイドル活動をどこまで続けるか、あるいは別の視野へとシフトするのか、それを決めるのは、責任を持ってその人生を背負い続ける彼女たち自身でしかありえない。
48グループの中でも、波紋を呼ぶ「卒業」が多く生まれてきたSKE48にとって、卒業メンバーを現役メンバーと同等の人生として映そうとしたこのドキュメンタリーは、ひとつの優しさと相対的な視野とを与えてくれるもののように思える。未完成だったグループがある完成度へ向けて凝集していく一瞬はこんなにも尊いし、そんな瞬間をかつて見せてくれた人たちが、そこから繋がった現在の人生を歩んでくれていることは、こんなにも嬉しいことなのだ。
■香月孝史
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。
■映画情報
タイトル:『アイドルの涙 DOCUMENTARY of SKE48』
企画:秋元 康
監督:石原 真
出演:SKE48
(C)2015「DOCUMENTARY of SKE48」製作委員会
公式サイトURL:www.2015-ske48.jp