金子厚武がFOLKSの新作を分析
「冬」の空気を閉じ込める、FOLKSの職人的なサンプリング技法に注目
そんな中でも、ここでは彼らのサンプリング技法に注目したい。彼らは「Northern Laboratory」というラジオのレギュラー番組を持っていて、各メンバーがコーナーを担当し、様々なアプローチで音を研究している。例えば、リズムに注目する「リズミックラボラトリー」や、ハーモニーを紐解く「ハーモニックラボラトリー」、好きなアーティストのルーツを掘る「ディグラボラトリー」などがあるのだが、中心人物の岩井郁人が担当しているのが「サンプリングラボラトリー」というコーナーで、生活音をサンプリングして、それを基に楽曲を作るといった試みを行っているのだ。
そんなサンプリングの手法がフィーチャーされているのが、恵庭で録音した環境音を用いたインストナンバー「Northern Lights」。郁人は普段からフィールドレコーディングを行い、フォルダにネタを貯め込んでいるそうで、この曲では雪や枯葉を踏みしめる音、さらには恵庭の名所であるラルマナイの滝の音などが使われている。また、サンプリングした音の波形を解析して、その空間を再現したリバーブを作れる機材があるそうで、恵庭にあるトンネルの中で手を叩いたときの音を基に作られたリバーブが使われていたりと、あらゆる方法で楽曲に地元の空気を閉じ込めているのだ。さらに、ダークな曲調が異彩を放つ「UNIVAS」は、さまざまな音域や長さの声を録音し、それを加工してうわものやベースとして使った実験的な一曲。これらの曲はぜひ耳を澄まして、どこが何の音かを想像しながら聴いてみてほしい。
こうした音作りに対するこだわりから僕が思い出したのは、the telephonesの石毛輝による3枚目のソロアルバム『Dark Becomes Light』。砂原良徳がマスタリングを手掛けたこのアルバムも、生楽器の音を加工して使っている他、フィールドレコーディングの手法も交えるなど、職人的なサウンドメイキングが印象的な一枚。海外の音楽シーンに対するシンパシーなど、両者には多くの共通点があると思うのだが、闇から光を求める『Dark Becomes Light』の雰囲気は、厳しく長い冬を過ごしながら春を待ちわびる、北海道の人々の心境ともリンクするものがあるのではないだろうか。
(文=金子厚武)