back numberはなぜ失恋を歌い続けるのか 情景描写を駆使した詞世界を読む
失恋を描いた楽曲群に見られる繊細な心理描写
back numberにとって“片思い”と同じくらい重要なモチーフが“失恋”だ。興味深いのが「幸せ」という楽曲で、女性の視点から描いた歌詞となっている。
〈私が聞きたかったのは/終電の時間でも好きな人の悪口でもなくて/
せめて今日のために切った髪に気付いて/似合ってるよって言ってほしかった〉
思いを寄せる相手に恋人がいることがわかっていながら、それでもなお恋心を抱いてしまう女性の繊細な心に寄り添った歌詞で、こうした機微を描けるのはボーカル・清水依与吏の強みと言えるだろう。また、たとえ失恋を歌っていても、それをただ悲しいだけの出来事として捉えるのではなく、肯定的に描いているのも特徴だ。「思い出せなくなるその日まで」では、次のような一節にそれが表れているといえよう。
〈たとえばあなたといた日々を/記憶のすべてを消し去る事ができたとして/
もうそれは私ではないと思う/幸せひとつを分け合っていたのだから〉
失恋の悲しみもまた、大切な感情として受け止めているのがわかる歌詞で、そこにはback numberの楽曲すべてに通底している美意識が感じられるだろう。「チェックのワンピース」では、失恋を経てなお前向きであろうとする姿勢が、より具体的な言葉で綴られている。
〈これからチェックのワンピースを/どこかで見つける度に/あぁ君を思い出すのかな/嫌だな 嫌だな/それでもいつかまた出会えたら/僕ならもう大丈夫だと言えるように/君のいない明日を光らせよう〉
こうしてback numberの失恋ソングを読むと、情景の描写などにとどめて余韻をもたらす歌詞というより、具体的な心理描写にまで踏み込んでいて、曲中で描かれるストーリーを完結させるような歌詞となっていることもわかる。また、楽曲そのものもドラマチックな展開となっていて、昨今のバンドでは珍しいほどストーリー性を持った作りとなっている。そうした曲の展開に合わせた歌詞は、ともすればエモーショナルになりすぎる傾向もあるが、back numberの場合はメロディラインの秀逸さで、それを自然なポップスとして聴かせることができている。そのバランス感覚も、優れた一面といえそうだ。
恋にまつわる切なさや悲しみを、等身大の言葉で具体的に綴り、人々の共感を呼ぶ作品を生み出し続けているback number。そのストーリー性が高い歌詞世界は、抽象的な表現がスタンダードとなっている昨今のJ-POPシーンだからこそ、人々に支持されているのかもしれない。
(文=編集部)
■リリース情報
『ヒロイン』
発売:2015 年1 月21 日(水)
初回限定盤(CD+DVD):¥1,500(税抜)
DVD「ヒロイン」MV、love stories tour 2014~横浜ラブストーリー2~ダイジェストを収録
通常盤(CD):¥1,000(税抜)
2015年春のライブハウスツアー「アーバンライブツアー2015」チケット先行シリアルナンバー封入
〈収録曲〉
1. ヒロイン
2.アーバンライフ
3.アップルパイ
+各曲のinstrumental 収録