宗像明将がNegicco『Rice&Snow』をレビュー

早くも“2015年のアイドル名盤”確定? Negiccoの新アルバムを重層的にした4つの軸

 三つめは、前述してきたような先鋭の起用だ。アイドルポップスでは大物の起用が話題になりがちで、「アイドルばかり聴かないで」以降のNegiccoにもそんな危惧を抱いたものだが、スカート、蓮沼執太、Shiggy Jr.、Orland、北園みなみ、Pan Pacific Playaといった顔ぶれの起用には、感心するのを通り越して「ずるい」とすら感じてしまった。

 Shiggy Jr.が編曲した「1000%の片想い feat. Tomoko Ikeda (Shiggy Jr.)」は、池田智子のヴォーカルが配された甘いシティポップ。池田智子のヴォーカルが前面に押し出されることで、Negiccoのヴォーカルもみずみずしく響いている。池田智子をはじめ、Shiggy Jr.のメンバー全員が演奏に参加している楽曲だ。

 スカート編曲の「裸足のRainbow」も、澤部渡、カメラ=万年筆の佐藤優介、昆虫キッズ(2015年1月7日に活動終了)の佐久間裕太、マンタ・レイ・バレエの清水揺志郎と、メンバー全員が演奏に参加。2014年をもって閉店した南池袋ミュージック・オルグで録音された音源でもある。

 Orland編曲の「パジャマ・パーティー・ナイト」は、90年代風味のサウンド。「二人の遊戯」から「パジャマ・パーティー・ナイト」への流れには、Especiaをも連想した。

 蓮沼執太編曲の「自由に」では、蓮沼執太フィルの2014年のアルバム「時が奏でる」のイメージが強かっただけに、突然R&B風味のパーティー・チューンが始まって意表を突かれた。しかもNegiccoがラップをしはじめるという衝撃作だ。

 ここまでに紹介した楽曲以外にも触れたい。2014年のシングルでもあった「トリプル!WONDERLAND」は、矢野博康が作詞作曲編曲。東京女子流の楽曲での演奏でも知られる土方隆行がギター、KIRINJIの千ヶ崎学がベースを弾いている。

 ジェーン・スーが作詞、NONA REEVESの西寺郷太が作曲した「ときめきのヘッドライナー」は2013年のシングル。編曲はNONA REEVESの奥田健介と西寺郷太が行い、演奏には小松シゲルも加わり、NONA REEVES全員が参加している楽曲だ。冒頭の翳りがあるメロディーとNegiccoのヴォーカルが実に良い。

 こうして楽曲やアルバムのコンセプトに触れていると、その情報量の多さに酔ってきそうだが、四つめとなるポイントとして「シンプルさ」がある。実は、『Rice&Snow』がアナウンスされて一番驚いたのは、1形態しか発売されないことだった。「光のシュプール」がシングルでリリースされた際には、ミュージックカードまで投入されて8形態あっただけになおさらだ。『Rice&Snow』のCD帯には何の謳い文句もない。さらに、真っ白いCD盤面にプリントされた新潟県のシルエット。こうした、シングル「光のシュプール」の総力戦後のアルバムである『Rice&Snow』のシンプルさには、先述した「サンシャイン日本海」における田島貴男の「引き」の美学に通じるものを感じた。

 この『Rice&Snow』を聴きながら意地悪く粗探しをしようとしたとき、思い浮かんだのは「隙がなさすぎる」ということだった。しかし、過去に同様のことを感じたアイドルポップスのアルバムは、言い換えるとどれもが名盤であった。この直感が間違いないか確かめる、という口実で『Rice&Snow』をしばらく聴き返すことにしたい。

■宗像明将
Twitter
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。

関連記事