音楽ビジネスはどこへ向かう? ストリーミング以外の手法を探るミュージシャンの動きも

 果たして音楽ビジネスはどのような方向に向かうのか。既存のCDやデジタルダウンロード売上の縮小は今後も続くだろう。過渡期ともいえる状況下のなか、ワン・ダイレクションやエド・シーランのようなストリーミングサービスをプロモーションとして使う手法の他にも、前衛的なミュージシャンの間では新たなビジネスのやり方を模索する動きが出てきている。ひとつはパッケージの高付加価値化。ヒップホップの歴史に名を刻む伝説的グループ、ウータン・クランはデビュー20周年となる記念アルバム「A BETTER TOMORROW」において、世界中の王室をクライアントに持つデザイナーYahyaのハンドメイドによる彫刻が施された高級ボックス・セットを制作した。この作品はあくまでプロモーション用として美術館への展示などを目的としているが、ミュージシャンの間では単にCDを売るのではない高級パッケージの販売がトレンドとなっている。「CD=音楽を収録したメディア」という概念にとらわれず「CD=観賞するためのパッケージ」というCDのグッズ化の流れは今後も続くものと思われる。

 そしてもうひとつ。ミュージシャン自身が自分のサイトで音源を発表するというのも今年よく見られた傾向だ。前述のトム・ヨークは最新アルバム「Tomorrow’s Modern Boxes」をファイル共有システムTorrentファイルによって販売。リリースからわずか6日で100万ダウンロードを突破した。またナイン・インチ・ネイルズは過去のライブ音源をネット上で公開。こちらはフリーでダウンロードが可能で、900以上のライブ音源を527GB分のオーディオファイルとしてTorrentファイルでダウンロードすることができる。一風変わったところではヒップホップ・アーティストのニプシー・ハッスルが新作ミックステープ「Crenshaw」をフリーで公開。同時に100ドルもするCDバージョンを限定1000個でリリースし、24時間で全て完売して話題となった。自身のサイトで音源の販売を行う場合はあいだのマージンを節約することができる。またフリーで公開する場合も大きなプロモーション効果が期待できることが明らかとなった。先の高付加価値化と併せて、高音質音源のみ販売という形にすることも可能。このような新しい流通の仕組みは来年以降も広がりを見せそうだ。

 以上、昨年みられた新しい音楽ビジネスの潮流を振り返ってみた。ストリーミングサービスは今後も拡大を続け、一方でそれだけに依存しない手法はミュージシャンの間でも浸透していくだろう。来年にはどのような動きが見られるか、今後もその動向から目が離せそうにない。

(文=北濱信哉)

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