西野カナ・椎名林檎・Dreamの新曲に見る「恋愛観」とは? 猪又孝がラブソングの情景を分析

 椎名林檎の『日出処』は各メディアが絶賛する通りの大傑作。一聴して思い浮かべたのは、ビートルズの『Sgt.Pepper’s Lonely Hearts Club Band』だった。『Sgt.Pepper’s〜』はそれまでのポップスの概念を覆した名作だが、『日出処』も、管楽器や弦楽器がふんだんに採り入れられ、アレンジや曲調が本当に多種多彩でJ-POPの常識を逸脱しており、驚愕と興奮を隠せない一枚だった。

 そんな中で、女の本能を感じた愛の歌が「ありきたりな女」。女の一生を歌った曲と言われているが、個人的にこの歌から最も強く感じられたテーマは出産だ。切なく寂しげなメロディーを持つ曲だが、この曲はいざというときの女性の選択の強さや切り替えの早さ、女性だけが感じられる生の喜びを歌っているように思えてならない。実際、彼女は36歳二児の母。その実体験が呼び起こすのだろうが、ラストの「グッバーイ」の叫びは解放感と生命力が満ちていて、“会いたくて震える”んじゃなくて、歓喜に震えたもの。

 もうひとつ面白かったラブソングが「走れゎナンバー」。小文字で表記されているが、「わナンバー」=レンタカーというわけで、自分の体をレンタルするような感覚の恋を歌っている。最近注目されている“昼顔”的なテーマも感じられる曲で、ダメだとわかっていても突き動かされる衝動と恋が実らぬ焦れったさや虚無感を、70年代ファンクを思わせるサウンドに乗せて歌唱。こんな曲が作れちゃうのも彼女の恋愛遍歴ゆえ!?

 Dreamの「ダーリン」は、E-girlsとしても活動するメンバーのShizukaがMVでキスシーンに挑戦したことが話題になった曲。結婚をひとつのテーマにしている曲で彼氏からのプロポーズを待つ乙女心を描いている。とはいえ、歌詞に具体的な表現はないのでリアリティーがあまり感じられないのが正直なところ。好きな人の苗字の下に自分の名前を書くだけでドキドキしちゃうような、まだ恋に恋してる10代女子にはピッタリなのかもしれません。

■猪又 孝
音楽ライター、ときどき編集者。日本のソウル/R&B/ヒップホップを中心に執筆しつつ、カワイイ&カッコイイ女の子もダイスキ。音楽サイトMUSICSHELFで「猪又孝のvoice and beats」を連載中。三浦大知のアーティストブック『SHOW TIME!!』ではメインライターを担当。

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