小室哲哉のDigitalian論 ーーデジタル時代の新型フェス『THE BIG PARADE』で聞けた本音とは?

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 話を『THE BIG PARADE』でのトークに戻そう。小室はSNSによる役割が増えてきた近年の音楽ビジネスについてこう語っている。「“拡散と集束の概念”によってぜんぶ解釈できると思う。一時的な収入を目指すのではなく、まずは“拡散”して、ユーザーが “集束”した際に収益化を目指すべき」と語っている。ちょうど、U2がAppleと組んでiTunesストアで、Apple ID保持者である5億人を対象に新作アルバム『Songs of Innocence』をフリー配信したタイミングだったこともあり、「認知される機会が増えることで、ブランディングにつながる」と評価していた。大御所アーティストが音楽を無料化することについて、ネット界隈では賛否両論となった施策ではあったが、その後『TIME』誌によるU2ボノ氏への取材によれば、この先Appleの新しい音楽配信のフォーマット提供をボノ監修で進めているという。テーマは単曲販売ではなく、iTunesストアが破壊した“アルバムを大事にしたスタイル”というのが興味深い。それを考えれば、賛否ありつつもU2がフリー配信でシングルではなく、敢えて“アルバム作品”をリリースしたことは、後から振り返れば新プロジェクトの布石となっているのかもしれない。

TM NETWORK / RAINBOW RAINBOW 2014(TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end)

 そもそも、小室はTM NETWORKとして、いまから14年前の2000年にプログレッシヴ・ロックをテーマとした名作アルバム『Major Turn-Round』のプロモーション施策として、先行シングル3作品「MESSAGE」、「IGNITION, SEQUENCE, START」、「WE ARE STARTING OVER」のフリー配信をおこなっている。正確には、当時契約でがんじがらめだったソニーミュージックから、フリー配信など自由なリリースをおこなうために、自ら立ち上げたインディペンデント・レーベルロジャム・エンタテインメントへ移籍している。

 2000年当時、まだ電話回線が主流で、光回線が一般的でなかった時代であり、筆者が楽曲をダウンロードするには苦労したことをいまでも覚えている。そのことについても小室は「これまでつねにイノベーターでありつづけたというプライドがあります。また、これからもそうありたいと願っています。(中略)無料ダウンロードは採算を度外視したところで始めました。しかし、TM NETWORKの無料ダウンロードを通し、そうした行為が日常的になったと言っていいと思います。ホスト・コンピューターからデータを引き出すことに壁を感じなくなった人もいると信じています。それだけでもぼく達の実験には価値がありました。無料で新曲を手に入れた人達が“次”を聴きたくなったり、“深く”知りたくなる状況を作っていこうと思っています。“次”や“深く”はアルバム全体であり、ライブに足を運んでもらうことであり、広い意味ではTM NETWORKを好きになってもらうことです。(中略)ただ、現在ぼく達がやっていることの恩恵に浴するのは、次の世代のアーティスト達になるのかもしれませんが、イノベーターとして歴史の最初に名を連ねることには大きな意味があると思っています。なぜなら、ぼく達はTM NETWORKだからです」(※2000年『TM NETWORK TOUR MAJOR TURN-ROUND Supported by ROJAM.COM』ツアーパンフレットより)。と、TM NETWORKが背負っている先進性というヴィジョンの在り方を熱く語られている。

 その後、本人達が影響を受けたわけではないが、2005年には“完全無料配信”をヴィジョンとする次世代ネットレーベル『Maltine Records』が誕生し、そして2014年のいま、同レーベルに所属していたtofubeatsがメジャーシーンにおける次世代ニューカマーとして注目を集めている。tofubeats自身は小室への影響を感じさせる発言は一切ないが、『BIG PARADE』という場で、両者が先進的なアーティスト代表として名を連ねていたことは感慨深い。

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