沖野修也が明かす“1万円でアナログ販売”提案の真意「録音物にはライブとは違う価値がある」

「『俺らはTシャツ屋ちゃうねん!』って思うことが多々ありますよ(笑)」

ーーライブ偏重の傾向はあるかもしれません。

沖野:音源もタダ、ライブもタダ、みんな本当にそれでいいの? と思っていましたが、最近では音源を買ってもらうためにフリーライブをやる人も増えていますよね。それは面白い試みだと思います。“フリーミアム”という言葉がもてはやされすぎて、みんなそこに活路を見いだそうと、その価値観に寄りすぎている。ならば、それを頑なに拒んで対価を得る人間がいてもいいと思うんですよ。

 もちろん、試聴(視聴)やアルバムの1曲をフリーにする、というのは否定しません。でも、音楽業界関係者と話をしていると、「音楽は無料! ライブも無料! Tシャツで儲けます!」みたいな話が多すぎて、「俺らはTシャツ屋ちゃうねん!」って思うことが多々ありますよ(笑)。音楽家は演奏し、録音物をつくり、それに対するお金を支払ってもらう。それはごくごく自然なことだと思います。

ーー沖野さんはDJ活動もしていますが、DJの収益構造は今どうなっているのでしょう。

沖野:はっきりいって、崩壊していますね。

ーー世界的にも著名なDJが何十億と稼いでいる、という話も聞きますが……。

沖野:ティエストとか本当すごいですよね、年収約22億とか。彼のようなDJこそ、全世界的に起こりつつある有名人崇拝の最たるものです。有名な人はどんどん有名になっていくし、そうじゃない人はどんどん埋もれていく。『フラット化する世界』(トーマス・フリードマン著)でも書かれていましたが、レコーディング作業もメールでやりとりすることが増え、アウトソーシングも普通になり、制作環境は以前と比較してだいぶフラット化しました。でも、情報やマーケティング、アウトプットに関しては、まったくフラット化していない。

 僕もテレビに出演して、辛口で世相を斬るタレントにでもなれば、富が集まってくるかもしれません。その有名税を頼りに音楽を売る、というのもひとつの選択肢だと思います。音楽とはかけ離れた本業ついでに音楽を売るか、それともキックスターター(09年にアメリカで設立されたクラウドファンディングによる資金調達の手段を提供する民間企業)のようにファンに投資してもらうか。もしくは、極限までコストを下げて、少ない枚数でも薄い利益を出すか。今のところはこの3つの方法でしょうね。

 僕の場合は、コストを下げて少ない枚数を捌き、価格を上げるという方法。僕の作品に絶対的な信頼を置いてくださっているフォロワーの方々に、納得してもらえる商品をそれ相応の価格で購入してもらうという感覚です。

ーー実際にブログを書かれてから、沖野さんのファンの方の反応はどうでしたか?

沖野:ありがたいことに「買います!」と言ってもらえました。僕がそれだけお金をかけてやっているということは、逆に告白してよかった、とも感じました。音楽家の立場から「制作費はこれだけかかった」とか、「このアーティストにはギャラをこれだけ支払った」とか言うべきじゃない、という人もいましたが、隠したい人はずっと隠し通せばいいし、それこそ僕はキックスターターなんかに乗り出したときには、明細は提示しなければいけないと思うんです。たとえ個別のギャラを伏せたとしても、必要最低限かかったコストの全体像は見せなくちゃいけない。それに、情報の可視化がファンのロイヤリティを高めることにも役立ったりもするかもしれません。

 これからさらに音楽家の経済事情は難しくなっていくような気がします。だからこそ、アーティストがよりよい環境で音楽制作に没頭できるようサポートしていかなければいけない。それができなければ、クリティブな作品は決して生まれないと思います。
(後編【「音楽の販売スタイルはもっと模索できる」沖野修也が提言する、これからの音楽マネタイズ術】につづく)

(取材・文=編集部)

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