「銀杏BOYZの新作は100万枚売れるべき!」ダイノジ大谷と宇野維正が緊急対談

大谷:すごくわかりますね。俺、以前になんでこんなにブラッドサースティ・ブッチャーズ好きなんだろって考えていたんですよ。それほど歌唱力が高いわけではないのに、なんであんな響いちゃうんだろうなって。それをブッチャーズ好きの友人に話したら「だから良いんじゃないですか」っていうんです。轟音の中、か細い声で必死に美しいメロディを紡いでるってところに、胸を打つものがあるんじゃないかと。音楽ってそういうものじゃないかって、新しい価値観を提示されてる感じがしましたね。か細い声で歌い上げるから、ものすごくエモーショナルで、グサって刺さるんだなって。今回の銀杏BOYZのノイズも、峯田君のむき出し感が際立っていて、逃げも無くて、しかも可愛い。だから大成功しているなって感じます。

宇野:ブッチャーズの吉村さんは昨年亡くなる1日前に、パステルズの新譜を聞いて最高だったってことをツイートしていて、そのこともすごく印象に残ってます。パステルズとかマイブラもそうだけど、本質的に拙いじゃないですか。銀杏BOYZも音楽的にはものすごく大進化をしたけれども、ただこれが完璧なノイズか、完璧なインダストリアルかって言われると違う。拙さはずっと残っている。その拙さこそが、音楽のセクシーさに繋がっている。僕は、『光のなかに立っていてね』は彼らにとっての『ランダム・アクセス・メモリーズ』だと思うんですよ。ダフト・パンクの『ランダム・アクセス・メモリーズ』は、彼らがフランスで少年時代を過ごしていた80年代に活躍していたトップミュージシャンを集めて、アルバム一枚で80年代の音楽にオマージュを捧げた。銀杏BOYZの場合は、自分たちが一番多感だった頃の90年代の音楽に、今回の『光のなかに立っていてね』全体でオマージュを捧げている。それは、ノイズやインダストリアルやシューゲイザーといった洋楽だけじゃなく、「ぽあだむ」のようなフリッパーズ・ギターみたいな曲もあるし、「愛の裂けめ」は当初はもっとBPMが早くてX-JAPANみたいな曲だったって言うし、「愛してるってゆってよね」のラップはスチャダラパーみたいし、「I DON’T WANNA DIE FOREVER」は初期の電気グルーヴみたいでしょ? ただ、ダフト・パンクと違うところは、彼らはバンドの4人だけでそれをやろうとしちゃった。それは9年かかるよっていう(笑)。

大谷:ONE OK ROCKも90年代の音楽を自分たちの音楽としてやっていますね。それこそまさにインダストリアルで、海外の音と一緒か、それ以上の空気を生み出せている。だけど、峯田君は「I DON'T WANNA DIE FOREVER」とかで、あえて超しょぼいキックとか使っているんです。90年代を踏襲するんだけど、絶対そのままではやらないっていう。別の戦い方を知っているっていうか。

宇野:ここ十数年、ずっと80年代リバイバルっていうのが続いていて、そこでダフト・パンクが誰も超えられない金字塔を作ってしまった。でも、じゃあ次は90年代リバイバルかって言うと、あんまりぞっとしない気持ちがあったんですよね。ところが、こういう形での90年代リバイバルっていう方法があった。音楽史的な意味で言うと、これもまた誰も真似出来ない作品だと思います。ほかに90年代リバイバルをやろうとしている人たちがいたら「つまんないものになるからやめた方がいいよ」って思うんですけど、このアルバムだけは他の誰にも考えつかない方法で針の穴に糸を通してしまった(笑)。実際、今まで銀杏BOYZに興味がなかった音楽好きに聴かせると、みんな最初に「えっ!?」ってなって、聞いてるうちにどんどん前のめりになる。音楽ジャーナリストとしてではなく、純粋に音楽愛好家として、こんなにいろんな人に無理矢理聴かせるのが楽しいアルバムはないです。

大谷:だからこそ、100万枚売れてほしいって思うんですよ!

宇野:まだ早すぎるけど、個人的にはダントツで今年のベスト1です。こんなに邦楽・洋楽関係なくド真ん中に入ってくる作品ってないし、しかもそれがチャートで2位と4位でしょ。音楽にたずさわる仕事をしていて、こういう時に盛り上がらなくて、一体いつ盛り上がるんだっていう話ですよ(笑)。
(文・構成=編集部)

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