横山健が今の音楽業界とインディーズ・レーベルのあり方に切り込む (後編)
「90年代みたいな夢はもう辿れない」横山健のシビアなシーン分析と、レーベルが目指すもの
PIZZA OF DEATH RECORDSを運営する横山健が混迷する音楽シーンに対し、インディーズの視点から提言を行うロングインタビュー後編。前編ではCDが売れない現状と、その中でレーベルやレコード会社が担う役割までを語った。後編では、今のミュージシャンが置かれた状況をシビアに分析するとともに、自身のレーベルが目指す方向性を明かした。聞き手は音楽ライターの石井恵梨子氏。(編集部)
前編:横山健が語る、これからのレーベル運営術「そもそもレコード会社なんてのは隙間産業なんだ」
――ライブの動員、物販の売上は好調なバンドが多いですよね。
横山:うん、物販とライブはすごくいいの。やっぱりツアーバンドにとって物販は生命線で。ライブがカッコよければみんな足を運んでくれる。なぜならCDや書籍はコピーが利くけど、体験ってコピーできないから。だからCDが売れないバンドでもライブで食っていくことができる。でもそこにもマネージメントの力は必要で、たとえばハコに対して「最低一回のライブにつきいくらのギャラは欲しい」って交渉できる人間がちゃんといないと。ただ漫然とツアーしていたんじゃ食えないよね。だから、ちゃんと長い目で考えて、いろんなコネクションを使えば、ツアーだけで食ってくことは可能。ただ、俺たちがリスナーとして見てきたようなミュージシャンの夢、あとはハイ・スタンダードが活躍した90年代みたいな夢はもう辿れなくて。いちミュージシャンとしてはほんと腹立たしいし、なまじ、いい時期を経験してしまっただけに申し訳ないって気持ちもあるけど。
――申し訳ないですか。
横山:サカナクションの山口くんのツイートとか、見てて辛くなる時があるもん。彼ら、10年早かったら100万、200万枚と売れてたバンドでしょう? あとは一生懸命やっているCD屋さんとか。90年代後半なんて、俺らのCD売って、お金儲けてた連中がいっぱいいる。そこは小売店に対しても申し訳ないっていうか、なんとも遣る瀬ない気持ちにはなるけど。でも、小売店だって相手はアマゾンだもんね。あれに対抗しようっつったら……何があるんだろう?
――もはや「店に足を運んで、直接触れ合う喜び」みたいな情緒に訴えかけるしかない。だから二極化ですよね。利便性を追求して巨大化するか、人間的な情緒だけで細々と食っていく道を選ぶか。
横山:そうね。特にインディー・レーベルはみんなギリギリでやってるから、巨大化なんてあり得ないし。もう腐らずに、自分たちでどんどんアイディア出して、せいぜい自分たちが楽しめることをやっていこうじゃないか、っていうぐらいかなぁ。少なくとも自分と、自分の周りにいる人、このレーベルにいる人間、このレーベルに所属して音楽をやっていこうと思ってくれてる連中。あとは俺のことを面白いと思ってくれて一緒に仕事してる連中に対して、せめていい目に遭わせたいなと思ってる。