新作『manners』と創作作法を明かすインタビュー(後編)
藤原ヒロシが考察する音楽とファッションの関係史「パンクに匹敵する出来事は起こっていない」
音楽、ファッションなど多分野で活躍してきたクリエイター藤原ヒロシが、10月16日発売のアルバム『manners』 について語るロングインタビュー後編。前編では、かつてプロデューサーやアレンジャーとしての活動が中心だった藤原ヒロシが、今作では全曲を自ら歌っている理由と、その創作上の方法論について話を訊いた。後編では、音楽とファッションの関係性と、新たな音楽が生まれない理由、そして今後、音楽に残された可能性についてまで語ってもらった。
前編:藤原ヒロシが語る、キュレーション的な“歌”の作り方「歌う内容は自分のことじゃなくていい」
――ファッションの仕事をする上でも、音楽は発想の源であり続けたのでしょうか。
藤原ヒロシ(以下、HF):常にあった気はしますね。それが具体的にどんな発想に繋がったかっていうとわからないんですけど、いつもそばにありました。ただ聴いているだけの時もあれば、DJをしている時もあったし、ギターを弾いている時もあった。少なくとも、他のことと切り離してはいなかったと思います。
――パンクやニューウェーブ、ハウスなど、音楽の世界では時代ごとに革命的な出来事が起きてきましたが、そうした動きには常に刺激を受けてきたと?
HF:もちろんあったと思います。ただ今は、パンクに匹敵するような出来事は起こっていないと思います。
パンクの頃がピークだと思うんですけど、そのくらいの時期まではファッションと音楽に密接な関わりがあったんですよ。パンクを聴くなら。パンクの恰好をしなければいけない。パンクの恰好をしているのにパンクを聴いていなかったら恥ずかしい、という風潮があった。音楽にはそれくらい影響力があったと思うんですが、そういった傾向は90年代以降は薄れて、今は音楽とファッションが一緒に出てくるということが少なくなりましたね。
音楽自体も新しいものがポンと出てくることはないですね。なぜかと言うと、古いものが消えなくなっちゃったので。常に情報としてどこかに残っている。以前であれば、あるスタイルは一回忘れられて、また流行って、そこで盛り上がったりした。けれど、今は盛り上がった状態の過去がずーっと残っている感じなので、昔とは違いますよね。
――今はアーカイブがたくさんあって、常に楽しめる反面、画期的なものが出てきにくくなったと。ポップ・ミュージックの革新性はパンクでピークに達した、という面もあるのでしょうか。
HF:それはあると思います。パンク、ヒップホップ以降は新しいものが出てきていない。ハウスも、ハウスって呼び方をしているだけで、手法はヒップホップに近いものがありますからね。あの辺で音楽の進化は止まっているんじゃないかな、と思います。もちろん、アレンジとかで変化は起きているけど、大きな意味ではパンク、ヒップホップ以来の革命みたいなことは起こっていないと思いますね。