「いずれは人の声も、楽器も必要なくなる」佐久間正英が夢見る、未来の音楽とは

――佐久間さんは20代の頃から、"言葉の意味"はおろか、楽器の演奏さえない音楽がいずれ生まれるだろうと考えていたそうですね。

佐久間:少しややこしい話になりますが、表現のイメージを音で表せば音楽なわけですから、楽器を重ねて、アレンジして、歌詞を考えて、人が歌って......というまどろっこしいことをしなくても、音楽は成立します。最終的な音としての「波形」を最初からイメージして、それを音楽として生成することができる技術ができれば、新しい音楽の形になるでしょうね。音楽を波形として捉えれば、人の声で歌う必要はないし、楽器を使う必要もないんです。

――オリジナル楽曲のインターネット無料配信も積極的に行うなど、佐久間さん自身が変わりゆく音楽業界の中で挑戦を続けてきました。自分の手で、そういう新しい音楽を作ってみたいと思いますか?

佐久間:研究してみたいとは思いますが、まずは過去の膨大な音楽の解析からはじめなければならないし、莫大な予算がかかるので難しいでしょうね。例えば、人が心地いいと思う音楽を解析して、いくつかのフレーズを並べればいい音楽になるかというと、そんなはずはない。サンプル単位で一つひとつ繋いで検証し、「心地よく繋がる」方法を導き出す作業が必要で、こればかりはコンピュータではなく人間がやらなければならないから、莫大な予算とともに、時間と根気も必要だと思います。でもいつか、頭の良い人がそういうものをポンと作ってしまうのではないか、という期待もありますね。

――過去の音楽の検証が必要だ、という話がありました。さまざまなロック・バンドやシンガーと関わる中で、その音楽に共通する"快感の法則"のようなものはありますか?

佐久間:ロック・バンドでいうと、パワーとスピードが大きいと思います。ただ、いかんせんロックも半世紀以上経った古ぼけた音楽なので、そろそろ終わってもいいのかなと思います。ロックは70年代半ばにはもう完成されていて、幸いにして80年代のニューウェイヴで一度解体されたことで、延命できたという感じ。90年代くらいまでは解体・再構築によってそれなりに変遷があったと思いますが、それ以降のロックは一般的に同じようなものになっていった。パンクが出てきてから、もう30年くらい経っていますからね。

――制作環境についても、あるいはアーティストの意識や作品についても、音楽業界が新しいものに一歩踏み出すべきタイミングなのかもしれませんね。最近の佐久間さんはプロデュースだけでなく、演奏者やクリエイターとして表に出ることも増えていると思います。いま、目指しているものはありますか?

佐久間:もともと僕はただのバンドマンですから、プロデュースの仕事も少なくなってきたし、別のことをやっている、という感じです。特に野望や夢というものは持っていないので、これからも地道に着々と音楽をやっていけたらいいですね(笑)。 (了)

【取材後記:3回に分けて掲載した今回の佐久間正英氏インタビューは、8月7日に佐久間氏の事務所で行われました。私たちはかねてから、佐久間氏がFacebookやブログで発表してきた音楽界への提言について詳しく話を聞きたいと考えており、リアルサウンド開始当初より願っていた取材が実現した形でした。初回の記事をアップした8月9日の夜、佐久間氏はご自身のブログ「Masahide Sakuma」でがん闘病中であることを公表されました。そうした事情を知らぬまま取材を申し込んだ私たちに対し、快く応じてくださった佐久間氏の優しさに、心から感謝と敬意を表します。そして、14日に行われる手術の成功と一日も早いご快復をお祈りします。神谷弘一】

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