『ミッドナイトスワン』初登場6位 草なぎ剛に集まる絶賛と「ネットの声」問題

『ミッドナイトスワン』の「ネットの声」問題

 先週末の動員ランキングは、『TENET テネット』が土日2日間で動員14万5000人、興収2億4600万円をあげて2週連続で1位。9月27日までの10日間の動員は74万2190人、興収は12億382万2590円。クリストファー・ノーラン監督作品最高の出足となった初週からはやや落ち着きがみられるが、作品の特質上リピーターが多いことや、他の新作ハリウッド大作の公開が軒並みペンディングとなっていることもあって、息の長い興行が期待できるはずだ。

 今週は、全国151スクリーンという中規模公開の独立系配給作品ながら、オープニング3日間で動員8万3519人、興収1億2076万9260円という好成績を記録して6位に初登場した、内田英治監督、草なぎ剛主演の『ミッドナイトスワン』を取り上げたい。同作の興行はウィークデイに入ってからも好調で、特に都市部では満席に近い回が続いている上映館もあるという。

 『ミッドナイトスワン』に関しては、著名人も含む多くの観客から絶賛が相次いでいる一方で、主人公のトランスジェンダーという設定にまつわる一部の描写について批判の声も上がっている。また、その批判の声に対して、内田英治監督がTwitterで挑発めいた反応をしたことで、今週の前半には火に油を注ぐような状況になってしまった。

 自身の評価を明確にしておくと、『ミッドナイトスワン』は主人公凪沙を演じた草なぎ剛の現時点におけるキャリアのピークと呼ぶべき憑依性の高い演技と、その主人公と共に生活をすることになる一果演じる新人の服部樹咲という驚くべき発見が刻まれた、近年の日本映画において屈指の「演者の映画」として記憶に残る作品である。そんな演者の魅力を引き出してみせた内田英治監督の演出手腕は確かなものだし、監督自身のオリジナル脚本作品をヒットに結びつけたという事実も、昨今の日本映画を取り巻く状況を鑑みれば快挙と言っていいだろう。

 一方、既に多くの人が指摘しているように、物語の終盤に主人公を襲う悲劇的な展開については、題材が題材だけにもう少し慎重さが必要だったように思う。特に、タイでの手術のシーンは、帰国後の術後処置に問題があったというのが脚本の意図なのかもしれないが、観客に国外の医療環境についての誤解を与えかねない描写だと言わざるを得ない。試写で作品を観た際も「作品は素晴らしいですが、終盤の展開については問題視する観客も出てくると思います」と宣伝担当者に正直に話したが、危惧していた通りになってしまった。

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