“おっさんの恋愛”はなぜこんなに切ない? フランクな作風が功を奏した『おっさんずラブ』

『おっさんずラブ』のフランクな作風

 土曜の夜11時15分から放送されている連続ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)は、天空不動産で働く33歳の春田創一(田中圭)が、上司の黒澤武蔵(吉田鋼太郎)から告白されたことからはじまる恋愛ドラマだ。

 本作は2016年の年末にSPドラマが放送されたものを連続ドラマ化したものだ。主人公の春田が上司と後輩から告白されるという三角関係をコメディテイストで描いているのはSPドラマ版と変わらないが、連ドラでは、人間関係がより複雑になっている。

昔ながらの恋愛ドラマの構造を男同士に

 春田に告白した黒澤部長は妻の蝶子(大塚寧々)に離婚を切り出す。

 一方、春田とルームシェアをする牧凌太(林遣都)も実は春田のことが好きだったことが判明。そして、営業主任の武川政宗(眞島秀和)が牧の元・恋人だったということが判明する。

 また、春田と幼なじみの荒井ちず(内田理央)は、春田の後輩の栗林歌麻呂(金子大地)から付き合わないかと言われるが、どうにも春田に気があるようで……という複雑な恋愛相関図がどんどん出来上がっていく。

 劇中では春田にモテ期が来たと言われるが、男2人から求愛される春田の戸惑いと混乱が劇中ではコミカルに描かれる。男同士の恋愛を描いた本作はいわゆるBL(ボーイズラブ)のテイストを実写ドラマに持ち込んだ作品だと言えよう。基本的にはラブコメで、作品のテイストは軽い。そのため、同性愛を茶化しているのではないか?という批判も少なくない。

 確かに本作における同性愛の扱いはNHKで放送された『女子的生活』や『弟の夫』といった作品に比べると、性的マイノリティの差別や多様性の問題に、そこまで深く踏み込んでいるようには見えない。基本的には昔ながらの恋愛ドラマの構造を、男同士に置き換えること。それ自体が一番の狙いのように見える。そして、その試みは見事に成功している。近年、これほど恋愛のドキドキや片思いの苦悩を描けたドラマはないのではないかと思う。

どんどん深くなる「おっさんの恋愛」というテーマ

 だが一方で、「おっさんの恋愛」というテーマはどんどん深くなってきている。特に第4話の黒澤部長の告白に春田が返事をする場面は「人を好きになるとはこういうことだよなぁ」と、実感させられた。

 春田に「ごめんなさい」と謝られた黒澤部長は「駄目なのは俺が上司だから? それとも男だから?」と尋ねる。春田は「理想の上司だと心から思ってます」と言うが、この気持ちは「恋愛感情じゃない」「僕は部長とまた、純粋な上司と部下の関係に戻りたいんです」という。この言葉を聞いた黒澤部長は、毅然とした態度となり、上司の立場に戻り、去っていく。遠景に見えるネオン街の光がハートマークになっているのは、やりすぎかとも思うが、あれは一種の心象風景なのだろう。断られた直後の「なんで? なんで?」と切ない顔で言う黒澤部長の姿と、毅然とした姿のギャップが激しく、木の陰から見守る蝶子が泣いてる姿はコメディとしておかしい。

 だが、それ以上に、気持ちに応えられないなりに誠実に対応し自分の気持ちを伝えようとした春田と、その気持ちを全身全霊で受け止めて身を引こうとする黒澤部長の姿に感動する。何より切ないのは、自分の気持ちを伝えたことで、春田にとって居心地のよかった上司と部下の関係という関係を自ら壊してしまったことに、黒澤部長が直面してしまったことだろう。

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