“子供向け”のレッテルを超越! ハリウッド超大作に匹敵する『名探偵コナン ゼロの執行人』の凄さ

『ゼロの執行人』は子供向けを超越

 つい4、5年前まではゴールデンウィーク興行の目玉であるにもかかわらず『名探偵コナン』を気にもかけていなかった筆者であるが、気が付けば公開を心待ちにするようになっていた。というのも“子供向け”というレッテルを超越した作品作りに踏み込んだクオリティの高さ、そしてそれが功を奏してシリーズの年々右肩上がりになっている興行成績を、とても無視できずにはいられないからだ。

 昨年の『から紅の恋歌』は年間邦画興収で堂々No.1に輝いた。そして今年の『ゼロの執行人』も(今年から金曜日に封切られるようになった)、週末3日間で16億7,000万円を叩き出すという圧倒的な人気の高さを見せつけている。ヒットする映画がすべて優れていると一概には言えないけれど、22年目を迎えても衰えることなく人気を伸ばし、また3Dなどの特殊な上映形式で上乗せすることもなく興行記録を伸ばし続けているのは、純粋に作品自体が優れているということに他ならない。

 さて、今回の『ゼロの執行人』は「東京サミット」が開かれるために埋立地に造成された「エッジ・オブ・オーシャン」という大型施設が登場するやいなや爆発するという、昨年ほど派手ではないにしろ、期待を裏切らないオープニングから始まる。そのニュース映像を観たコナンは、安室透の姿が映っていたことに気づき、その爆破に疑問を抱きはじめる。そんな中、爆破事件の被疑者として毛利小五郎が逮捕され、巧妙に仕掛けられた公安警察の陰謀であると感じたコナンは、安室と対立しながら事件の真相に迫っていくのだ。

 今回のキーパーソンとなるのは安室透(もとい、降谷零)。一昨年の『純黒の悪夢』で映画初出演を果たした、わりと新しいキャラクターである彼は、いまだに敵なのか味方なのかわからない存在。公安警察であり、「黒の組織」に潜入し、探偵であり、毛利小五郎の弟子として喫茶店「ポアロ」で働いているというとにかく謎の多いキャラクターなのだ。

 そんな安室のキャラクターの複雑さをさらに盛り立てるかのように、驚くほど複雑な物語が展開していく。安室が警察庁の公安部(正確に言えば公安部を統括する警備局警備企画課の人間だが)、その部下に当たる風見刑事は警視庁の公安部、そして東京地検の公安部も登場し、それぞれ異なる3つの「公安部」の人間を軸にした思惑や怨恨がからみ合っていく本作。さらに公安事件を専門に扱う謎の多い弁護士が登場したりと、もっぱら“謎解きミステリー”や“アクション”からかけ離れて“警察組織”の闇を模索するかのような、率直に言ってあまりにも硬質なドラマが繰り広げられていくわけだ。

 下手に“子供向け”アニメの一本だと思って油断すると、完全に取り残される物語だけでなく、毛利小五郎の裁判に向けたやりとりも実に丁寧に描写される。昨年の秋に公開された是枝裕和監督の『三度目の殺人』でも描かれた「公判前整理手続き」という映画やテレビドラマの裁判劇でさえもなかなか描かないような地味な手続きが、まさか『名探偵コナン』で登場するとは考えもしなかった。

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