松山ケンイチの苦悩の背中が胸にくる 『隣の家族は青く見える』無言の演技に注目

松山ケンイチの苦悩の背中が胸にくる

 コーポラティブハウスに暮らす4組の家族・カップルを描いたドラマ『隣の家族は青く見える』。3月15日に放送された第9話では、永きに渡る不妊治療の末、妊娠した主人公・五十嵐奈々(深田恭子)と大器に訪れた出来事があまりにも苦しいものだった。今回は夫・大器を演じる松山ケンイチの無言の演技に注目したい。

 結論から言うと、ようやく妊娠が発覚した2人に訪れた悲劇は「流産」である。赤ちゃんができたことを心の底から喜んでいた五十嵐夫妻とその家族。しかし流産発覚後、役者陣が見せる無言の演技が生々しく、多くの視聴者にとって辛い回となったことだろう。

 特に松山の印象的なシーンは、婦人科にて担当医に呼び出され、流産を宣告されるシーンである。担当医は「(奈々の)体調が戻ったら、また不妊治療に励みましょう」と彼を励ます。そのとき映し出されるのは、松山演じる大器の背中だけだが、その背中からは「何もすることができない自分」と「奈々の体を思い、治療をやめたい気持ち」「奈々の心を思い、治療のために支えたい気持ち」がごっちゃになっていた。背中だけが映し出されるほんの数秒のシーンで、不妊治療に励む妻を支える夫の苦悩が全て表現されているようで、物悲しかった。

 それでも大器は奈々を支えようと懸命に、明るく励ます。しかし流産の処置後、自宅に帰った2人の間には、互いを想いやるがゆえにギクシャクした空気が漂っている。第1話には、少々無邪気が過ぎて、視聴者をイラッとさせることもあった大器だが、奈々を想う気持ちには変化がない。ただ不妊治療に真摯に向き合った結果、奈々を想うからこそどう接すべきか分からなくなっている。世の中には、不妊治療などライフイベントに対して不安を抱える妻を支えたいが、どう支えていいか分からず戸惑う夫も少なくないだろう。優しさゆえにギクシャクしてしまうリアルさを、松山は演技で視聴者に伝えてくれた。
 


 特に切なくなるのは、第1話から変わらないような明るさを振りまきながら、奈々の目を真正面から見ることができなくなっている演技である。大器なりに“いつもと変わらない”日常を演出しているのだろう。しかし実際には、いつも通りの日常を送るには厳しい現実が起こっているのだ。奈々が大器の優しさに気付き、1人ベッドに戻ったとき、大器は声を押し殺して泣いた。松山は、心の整理がつかない大器の心情を「溢れる涙を腕で覆い隠し、声を押し殺して泣く」、その演技だけで表現してみせた。この1シーンで、大器と奈々の抱える痛みは十分伝わったはずだ。
 

 松山は“カメレオン俳優”と呼ばれている。与えられた役柄に対し、演技だけでなく見た目も変化させてしまう俳優だ。連続ドラマ初主演作品となる『セクシーボイスアンドロボ(2007年/日本テレビ系)』では、ことあるごとに必殺技をオーバーアクションで叫ぶ、ロボットオタクの青年を演じた。しかし『銭ゲバ(2009年/日本テレビ系)』では、ロボットオタクのやんちゃな青年の雰囲気が一転、貧困から「金のためなら何でもする」青年へと変貌した。主人公・蒲郡風太郎を演じた松山の目は終始ギラつき、金のためなら人をも殺す狂気が宿っていた。大河ドラマ『平清盛』(2012年/NHK)は視聴率こそふるわなかったものの、激動の時代を表現した演出にマッチする骨太な演技が魅力的だった。漫画の実写化映画での評判からか『ど根性ガエル(2015年/日本テレビ系)』でも主人公・ヒロシを演じた松山。主人公のもつ、昭和のアニメさながらの暑苦しさをそのままに、30歳男の現実的な雰囲気も演じきった。

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