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『君の膵臓をたべたい』は特別な“初恋映画”だーーヒロイン・浜辺美波のノスタルジックな魅力

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 「君の膵臓をたべたい」。奇をてらったようなインパクトのあるタイトルも、いざ蓋を開けてみれば10年近く前に大ブームとなった難病系純愛映画の様相を辿る。しかも、高校生を主人公にした青春ラブストーリーのようなルックスとなれば、最近の日本映画の主流となっているティーン向けの“キラキラ映画”の延長線上だと高を括られてしまうだろう。

 原作は2015年に出版された同名小説。作者の処女作とあって、少々荒削りではあったが、物語自体は良質で、映画にするには適した作品だ。それを吉田智子の安定した脚色によって、文学調なセリフ回しを忠実に残し、空間的な違和感(野暮ではあるが舞台となる地域や、桜の咲くタイミングや日付など)をあまり気にさせない。さらに物語の重要な舞台となる図書館の美術や、あざとく照らし出す照明が実にウェルメイドな仕上がりで、主人公の主観上で起こるヒロインの幻影の登場には何度も唸った。

 だからと言って、手放しに絶賛できるほど精巧な作りをしている映画ではないのだが、何とも不思議な感覚に陥る。そこがまた悔しい。おそらく、作中と同様に12年前に高校生だった20代後半の世代にとっては特に、当時を象徴する明確なアイテムなど登場しなくとも、容赦ないほどのノスタルジイに襲われるタイプの作品ではないだろうか。(最近“キラキラ映画”界隈で、当時の流行歌をカバーして主題歌にするのが流行っているが、本作のように中身で勝負されたものには太刀打ちできまい)

 それに気が付いたとき、数年前に観た一本の映画を思い出した。2013年に日本で公開された韓国映画の『建築学概論』である。建築家の主人公の元に、一人の女性がリフォームの依頼に訪れる。彼女は大学時代に同じ授業を取っていた同級生で、密かに想いを寄せながらも、いつのまにか疎遠になってしまうという、実らない初恋を描いた作品だ。

 この作品が韓国で公開され大ヒットを記録していた当時、夜遅い回になると会社帰りの中年男性の一人客がたくさん見受けられたという逸話がある。みんな缶ビールを片手に、隣の客とは一定の間隔を開けて座り、懐かしい大学時代の思い出に浸りながら涙していたそうだ。それと同じ類のノスタルジイが溢れる『君の膵臓をたべたい』を前にして、自分がもうそういう年齢になったのだと、感傷に浸りながらも認めずにはいられない。

 原作者自身が「ラブストーリー」としての意図はないと語るように、一概に「ラブストーリー」として扱うことも、「青春ドラマ」として扱うこともできない。とはいえ、12年の月日を経ても成長しているとは思えない主人公が回想していく、内向的だった高校時代に訪れた、死を目前にした少女との“仲良し”の日々は、薄々自覚しながらも認められずにいた初恋の日々を想起してしまうものだ。この『君の膵臓をたべたい』という作品は、日本映画では何十年に一本現れるか現れないかの、特別な“初恋映画”なのではないだろうか。

 前述の『建築学概論』でヒロインを演じたMiss Aのペ・スジが“国民の初恋”というキャッチコピーを付けられてブレイクしたように、本作の浜辺美波はそれ以上に理想的な“初恋相手”像を演じきった。彼女の存在が作品中のノスタルジイを増長させ、片時も目を離せない・離したくないという衝動に駆られてしまうのだ。おかげで初見時には涙を流すという余裕さえなかった。

      

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